第十五話『この世界の頂点』

───── 一瞬の出来事だった。


目の前の幼馴染が撃たれた。

俺の目の前で、腹部から血を出し、倒れた。


「……あい、な?」


久しぶりに名前を呼んだ。

だが彼女に声は届いていない。


「─────ちっ、不発か。まぁいい、犠牲者が出ただけでも口封じになるだろう。もし俺が来たことを誰かにバラしたら、お前ら全員を消し飛ばす。」


「──────テメェ。何帰ろうとしてんだ。待てや。」


後ろを向き帰ろうとする相手に待ったをかけた。

俺の中で完全に何かが切れた。必死に師匠が応急処置をしてくれているが。彼女を撃たれたことに対してか、彼女を守れなかった事に対する怒りか、はたまた両方か。


「──── あ"?誰に口聞いてんだガキ。」


「よせ深海!!あやつは次元が違う!!正直討伐士のトップでも勝てるか分からないほどの実力じゃ!!お前さんじゃ到底無理じゃ!」


「師匠、止めないでください。オレは今、人生で一番イライラしてるんですよ。」


この相手に勝てるかどうかなんて、この際どうでもよかった。

ただ俺は、愛菜を無慈悲に攻撃したあいつに言葉に出来ない程の憤りを感じているだけだ。


「深海…お主の気持ちはよく分かる。今お前さんは、怒りが抑えられず、殺意だけで動いておるのじゃろう。じゃが、怒りをコントロールせなければ、最強にはなれん。」


「─────だとしても、オレは今、13年間一緒に居た幼馴染を傷付けられたんです!!抑えられるはずが、ねえだろがぁぁぁ!!」


大声を出し、走った。

弁慶の顔面めがけて思いっきり蹴り飛ばした、感触は無い、というよりも。届かない。

2m20cmほどの身長がある大男に、ハイキックは胸元にしか当たらず、ビクともしなかった。


「──────痒いなぁ?小学生の蹴りかと思ったぜ。仮にも修行してたのにこれか。」


「クソ、まだまだなのか。でもオレは、こんな所で、負けてらんねえんだよ。」


弁慶が動いた。

思い切り頭を殴られ、地面に叩き落とされた。

一撃で脳が揺れた、頭から出血もある。

目に血が入りそうで前があまり見えない。


「ハッハッハッハ!!一撃でボコされてんじゃねえかよ。こんなんじゃ、討伐士の下っ端にもなれやしねえぞ!!」


「────まだ終わってねえだろ。」


立ち上がった。

一瞬でも油断すれば腰から崩れ落ちそうな程にダメージを受けているはずだ。

だが、頭の中で、誰かが語り掛けている。



─────────ないで。



──────けないで。



────負けないで!!!!!



「─────ありがとな。」


「あぁ?誰に話しかけてんだよ。気持ちわりい、殴られて頭おかしくなったのか?」


「オレに、この一瞬でいい。力を貸してくれないか?俺一人じゃ、勝てねえんだ。」


オタク特有の『漫画やアニメから知識を得る』作戦を実行した。神頼みに近いが、誰かに助けを求めるしか無かった。

頭の中に声が聞こえたのは本当だ。だが、助けを求めるのは、単なる自己暗示でしか無かった。自分ならできる、という自己暗示。


「あ?誰に言ってんだよ。本気で頭イっちまってんじゃねえのか───────」



世界が揺れた、いや、この地が揺れた。

何が来る、今までとは比にならない程の何がが。


「───────そこまでだ。」


弁慶の後ろに、誰かが空から落ちてきた。

というより、飛んできた。


そうして彼はこう言った。


「───そこの男の子、今助けを求めたよね?ここは、僕に委ねてくれないか?」


「だ、誰だテメェは!!」




そうして彼は、剣を引き抜きこう言った




「─────討伐士団第一位、神蔵蓮。オマエのような盗賊は、見過ごす訳には行かないな。」


「まさか、神蔵って─────」


弁慶が青ざめた、喧嘩を売る相手を間違えたと、そう判断したらしい。


「その反応的に、僕の事を知ってくれてたみたいだねぇ。でももう遅いさ。僕は今、怪我人の治療にあたらなきゃいけない。こんなに時間を食ってられないんだ。悪いけど、終わらせてもらうよ。」


「──クソが、ここは一旦引く。おいガキ!!また戦おうぜぇ??ハッハッハッハ────」


「おい!!待て!!まだ終わってねぇっつってんだろうが!!!」


弁慶の体がスルスルと消えていった。

正直逃がしたくなかったのだが、自分の怪我と、愛菜の状況的に、逃がした方が良かったのかもしれない。オレはすぐ様彼女の元へ走った。




────── 愛菜!!返事をしろ!!愛菜!!

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