第十一話『私を救ったヒーロー』

──── 時代は遡り、年長さんの頃。


私とシンくんはまだ出会ってまもない時。

その当時、私達はみんなと同じように "おままごと" や "おにごっこ" をして遊んでいた。


ある日、いつものようにシンくんを誘おうと思った時。


「────ねーねー!しんくん!おにごっこしよ!!」


「あーごめん、僕今この子達と遊ぶから、またこんどね?」


「あぁ、そうなんだ。うん!わかった!」


シンくんは、別の友達と遊ぶようになった。

おままごとやおにごっこも、気付けば私とはやらず、他の子とやるのを見るようになった。


私は、一人になった。

一人寂しく、粘土を転がして遊ぶ毎日。


そんなある日。


「─────ねえ、ちょっといいかしら?」


「え?うん。いいけど。」


同級生の女の子から呼び出された。その子は親が金持ちで、俗に言う "お嬢様" と呼ばれる女の子だった。


「ねえあいなちゃん。もうしんかいくんに話しかけないでくれる?」


「─────え?なんで?」


「だって、ワタクシが好きな人なのに、取られたらやだもん。だから近付きもしないで。」


校庭の木の陰で、誰にも見えないところで言われた言葉に、私はグサッと心を抉られた。

なんで私が、そんな事を言われないといけないのか。理解が出来なかった。

泣きそうになる気持ちをグッと抑えて。


「──────分かった。ごめんね。」


と、彼女に謝った。彼女は満足そうな顔をして、そそくさと教室に帰っていった。

私は、少しの間泣き、涙を必死に拭いて、また教室に戻った。


その出来事から、2週間後。


「ねえあいな。久しぶりに遊ばね??」


シンちゃんから声を掛けられた。

心の中では、久しぶりに話してくれて嬉しいという気持ちがあったが、お嬢様の言葉を思い出し。素っ気ない態度を取ってしまった。


「──────ごめん。私一人で遊ぶから。」


そういい、走って教室に帰った。

罪悪感で、胸が張り裂けそうになるくらい痛かった。

その様子を見たシンくんは、訳が分からない顔をしていたと思う。


そうして数日後。またお嬢様に呼び出された。


「────見ましたわよ。あなたがしんかいくんと話をしていたところ。ワタクシでさえ話しかけられることがないのに、あなたがなんで話してるの?言ったよね?」


「あれは、しょうがないじゃん。私だって、頑張って話さないようにしたし。」


「─────いいわけですわよ。それ。」


同じ木の裏で詰められていた。

私だって、やりたくて避けてる訳じゃないのに。なんでこんなに言われるの?

もう嫌だな。幼稚園、行きたくない。

そんな事を思いながら。涙目になっていた時



──────お前ら、何してんの?



シンくんが、私達の近くに来てこう言い放った。

いつもよりも真剣な声色で、私達に問い掛けた。


「し、しんかいくん!?い、いやぁ別に、ワタクシはただ、このあいなちゃんと仲良くしていただけですわ。」


「仲良くしてるなら。なんで愛菜は泣いてるんだよ。」


「………!」


それを聞いた瞬間、私は涙が零れ落ちた。

ずっと我慢してきた。ずっと抱え込んできた。

そんな気持ちが、晴れた気がした。

目の前に立つ彼の背中には、テレビで見ていた仮面ライダーと同じくらい、絶対的な安心感があったからだ。


「そ、それは。その……」


「僕 … いや、俺。俺は、人をいじめる子はキライ。それを隠してるのもキライ。」


シンくんが、初めて俺って言った。

仮面ライダーを真似したのかと思うと、少し可愛く思えた。


「────じゃあ、なんでワタクシとは仲良くしてくれないんですの!?ワタクシだってしんかいくんと話したかったんですの。」


「話さなかったのはごめん。仲良くしたかったけど、俺が話しかけに行こうとしても、逃げちゃうから。でも俺があいなと話そうと、お前には関係ないだろ。」


「─────キイィ、ワタクシより稼ぎが少ない貧乏のくせに、チヤホヤされて羨ましいのよ!!なんでワタクシよりその子がしんかいくんと!!」


その汚い言葉遣いは恐らく、親譲りなのだろうと今になってみると思う。

相当複雑な家庭環境で育ったんだろうと。


「稼ぎ?そんなもん分かんないけど、俺が、あいなと喋りたい。だから喋りかけた。それ以外の理由がいる?」


お嬢様は泣き喚き、"お母様と先生にチクってやるんだからぁぁぁぁぁぁ" と走り去って行った。


「なんなんだよアイツ。よく分かんねえの。」


「ええっと、助けてくれて、ありが───」


頭を撫でられた。言葉を喋り終わる前に。

その瞬間、胸の中がドキッと高鳴った。

感情に説明はつかないが、熱く、嬉しく。

いつまでも感じていたい感情だった。


「お前、ガマンしすぎなんだよ。全部我慢してたら、いつかバーン!って張り裂けちまうぞ。そうやって仮面ライダーの悪役が言ってた!!」


「私は…迷惑かけるかもって思って。その、みんなに迷惑かけるよりは─────」


「俺にならかけろよその迷惑。俺とお前の仲だろ?サッカーボールみてえにしっかり受け止めるからよ!!」


幼稚園生っぽい部分も残しつつ、まだ3年ほどしか経っていないという部分もありつつ、一番は、その言葉が何よりも嬉しかった。


「─────うん!じゃあまた明日から遊ぼ!久しぶりにサッカーしたい!」


「はぁ?サッカーは2人じゃ出来ねえだろ!」


「だいじょぶ!みんな誘う!!」


なんて話しながら、教室へと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る