第十話『最初の試練』

────爺さん。否。師匠の全て。それを知れれば、最強に一歩近づくのは間違いない。


「分かりました、何をすればいいんですか?」


「────ついてこい。」


と、口数が減りながら先導する爺さんの背中を見ながらついて行き、辿り着いたのは山奥。人気なんてあるはずも無い。というかこの近代化社会とは思えないほどの田舎山だった。


「─────ここは、」


「昔、ワシとばあさんが住んでた所じゃ。流石にこの近くじゃと不憫でな。引っ越したんじゃ。」


「なるほど、それで俺は何を─────」


木々が揺れた。森の動物たちが住処にそそくさと逃げるほどの圧力。何か、来る。


「─────お前。名前は?」


一瞬にして背後を取られた。クノイチの様に、音を一切立てずに。

だがこれだけは直感で理解した。

後ろを振り向いたら死ぬ。

そう判断するほどのオーラがあった。

ただ、声色から判断するに、女性だ。


「─── 小柳、深海。」


自分が唾を飲み込む音が聞こえるくらい、静かな環境の中、爺さんは一言も喋らず、汗が止まらないほどの圧力をかけられていた。


「私は美咲。よろしく深海。」


『よろしく』なんて言ってはいるが、信用出来ない。何されるか分からない。その恐怖で蹲りそうになる。


「試練はこうじゃ。数日間、ここで美咲と一緒にトレーニングし、ワシと木刀の模擬戦をして、ワシに勝って見せろ。ワシに勝てたら。全てを話し、深海を討伐士として推薦しよう。」


「─────師匠に、模擬戦で勝つ?でも美咲、ちゃんが俺より強いんですか?」


「─────美咲、圧をかけすぎじゃ。少しお主の力を見せてやれ。」


「Yes、Master」


ネイティブ英語だった。明らかに英語が染みているような感じだった。


「よく見てろ深海。一瞬じゃからな。」


『美咲』と名乗った人物は、髪が長くポニーテールで後ろに巻き、顔はハーフ顔。金髪に白い目をしていた。美形というより、"強い美女" というイメージだった。腰には日本刀の様な長い刀を携え、眉毛はキリッとしていた。


「ふっ───────」


彼女が歩いた。3歩、4歩と。

そこから一気に踏み込み、彼女は風を、空気を、この世界を切るかのように。円方向に木々を斬った。その数は、一瞬にして山の木が耕かされた様に、周りは平坦になっていた。


「─────すげぇ。段違いだ。」


「正直、今のワシよりも断然強い。この子に稽古をつけてもらえ。お前さんはもう体も出来始めてきた。あとはその子に任せて、ワシに最終的に勝てば、試練達成じゃ。美咲、その子を頼んだぞ。」


「Yes、Master。深海、少し呼びずらい。なんか呼び名はあるのか?」


「呼び名?みんなからは『シンちゃん』って呼ばれてたけど。」


「シン、ちゃん?クレヨン?」


「違ぇよ!誰が永遠の5歳児だ!確かによく言われてっけど!!」


「やれやれ、騒がしいお2人じゃ。山に場所を移して正解じゃった。」


こうして、2人の同棲訓練生活が始まった。

山にある一個の小屋で、サバイバル生活をしながら訓練をする。

正直、早く家に帰りたい。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「シンくん、大丈夫かなぁ。」


一人で取り残された私は、何もすることがなく、ただひたすらおばあちゃんの家事を手伝う毎日だった。


「おやおや、おひとりで寂しそうだねぇ。」


「あ、おばあちゃん。」


おばあちゃんが2階に上がってきた、腰が弱く辛そうなおばあちゃんを見て。少し申し訳なる反面、話せる相手が出来て嬉しかった。


「────正直、不安で。シンくん、いつも無茶するから。オタクのくせに。」


「あの子は、きっと大丈夫だと思うよ、たしかに心配する気持ちは、分かるけどね。愛菜ちゃんは、幼馴染なんだっけ?深海くんと」


「はい!ずっと一緒だったんですけど、中学生くらいになってから、シンくんが別の趣味を見つけて、私、そういうの何も分からないから、話についていけなくて。」


気付いたら、おばあちゃんに色々話したいと思うようになった。

寂しいからなのか、恩人だからなのか。



─────あ、そういえば。シンくん昔、私の事、助けてくれた事があったんですよ。

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