第十二話『立ちはだかる壁』

────ということがあって、私あの時助けてくれなかったら、きっと人間不信になってたと思うんです。


昔話を真剣に聞いてくれたおばあちゃんは、相槌を打ちながら共感してくれていた。


「そうね、確かに深海君のような子がいるのといないのとじゃ、だいぶ違うからねぇ。」


「私、それで無意識に彼の事を尊敬してるのかもしれないです。」


「大事な事だよ。人を信用し、尊敬できるって言うのはね。なかなかできない事さ。」


「─────そう、なんですかね。」


「そうだよ。だから深海君のことは、大切にしてやらないといけないね。深海くんも、きっと愛菜ちゃんの事が大切だと思うわよ。」


「そうだと、いいんですけどね。」


確かにその通りだと思った。

私はただ彼の帰りを待つことしか出来ない。

今彼は、試練に集中してる。きっと前より強くなって帰ってくる。

少しでもいいから、その彼をサポートできたら嬉しい。そう心から思った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



──────はぁ、はぁ。ちょっと、休憩。


同棲訓練生活を始めて3日が経った。

感想を一言で言えば。『ドギツイ』だ。

この金髪女、師匠とは比べ物にならないほどキツイ。

一番厄介なのは、この女が加減を知らないこと。

木刀だから死なないと思い込んでいるのか、思いっきり木刀を振り下ろしてくる。避けるのが精一杯だ。

正直今のままじゃ体がもたない。鍛えたはずの体力が限界値を超えそうになっていた。


「─────もう休憩デスか?シン。まだ1hourしか経っていませんよ?」


「無理無理、1時間もやってんだから一回水飲ませてくれよ。」


「全く、仕方ありませんネ。じゃあ私の手作りおにぎり食べて元気だしてクダさい。」


岩の上に座り、2人隣でご飯を食べる。

ちなみに食料は爺さんが持ってきてくれる。

小屋に冷蔵庫とキッチンはあるからある程度充実はしているが、訓練が死ぬほどキツイ。


「─────うまっ!これ超うめえ!」


「フフッ、当然デス。私が作ったのですから。」


「美咲、料理できるんだな。」


「昔は出来なかったのですが、一人で頑張ってStudyして覚えたのですよ。」


「なるほどなぁ。つか気になったんだけどさ。その日本語と英語混ぜるやつ、癖?」


「ハイ、完全に癖デス。私は元々アメリカに居ましたから。日本語が分からないところや言いずらいところは全てEnglishに置き換えてるんデスよ。」


「それで独学で日本語覚えられるってすげぇな、日本語って結構難しいんだろ?」


「まぁえいごより字が多いですからね。A〜Zと、あ〜んまででは雲泥の差ってやつデスよ。でも正直、英語の方が喋りやすいです。」


「だろうな、俺全く英語出来ねえし。」


「出来なそうな顔してますもんね。」


「おいそれ失礼だぞ。日本の道徳学んだかお前。」


「どうとく?というのはなんですか?」


「マジかよコイツ。────道徳っつうのは人間に絶対必要な優しさや思いやりを学ぶ授業だよ。心のノートとかやらなかったか?」


「私学校はアメリカだったので、やってませんでした。」


なんて世間話をしながら昼ごはんを食べ終え、またひと修行へと戻る。彼女の剣技は目を疑う時があるほどだ。


手首が柔らかいのか、腕を動かすのが早いのか分からないが、剣を動かすスピードが明らかに常人の域を超えている。


分かりずらい人は、某巨人アニメの人類最強兵士を思い浮かべて欲しい。

その人のレベルだと俺は思ってる。


それに果敢について行く俺は、何度も何度もやっているのだが、彼女に一撃を与えることすら出来ていない。


「─────なあ、どうしたらそんなに剣が上手くなるんだ?」


「そうですね、一番はやはり相手の動きをしっかり見ることデス。相手を見るというのは、相手の次来る動きを予測して、それに合う最適解を瞬時に判断すること、という意味ですよ。」


「難しい日本語使えてんじゃん。」


「剣を早く動かすには、自分の手を剣だと思えばいいんデスよ。何言ってるか分からないって顔してますけど、実際そうなんデス。剣は実際重さもありますし難しいデスが、そこは筋力で補い、大切な "手の柔らかさ" は体に染み込ませるしかないんデスよ。」


「なるほど、"相手を見ること" と "手の柔らかさ" か、ありがとう。勉強になったよ。」


大体の感覚は掴んでいるが、体がついてこない。


これはもう、一度剣術の修行を止め、筋力トレーニングに切り替える。


それが、今の最適解だと判断した。

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