第八話『最強を目指す青年』

意識が朦朧としている。

頭が痛い、お腹が痛い、喉も焼けるように暑い、つらい、のみこめない、しんどい、足が痛い、痛い、痛い、痛い、イタい、いたい──────


「──シン… くん … だい 、じょ … ぶ、。」


頭の中で聞き覚えのある声が掠れて聞こえる。俺はその声に答えようとも答えられない。

脳が揺れている、気持ち悪い、頭が痛い吐き気がする、気持ち悪い、最悪、無理、あつい、きつい、どうしよう、やばい、起き上がれない、だるい──────



「そう 、です … 、たす 、ほう 、他に 、… すか … 。」


途切れ途切れに彼女の声が聞こえる。

焦っているような声。バタバタと足音も聞こえてくる。


「そん 、じ 、私 … 、い 、ます 。」


何も聞こえない、何を言っている?

俺が関係している気がする。わからない。分かりたくない、怖い、なんだ、なにが ─────



「深海くんは、私の大切な人なんです。」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




────── ここは …… ?


目が覚めた。布団を被り目の前には丸い灯りが見えている。丸い灯りを覆うように右から彼女の顔が出てきた。


「シンくん……!シンくん!心配したんだから、もう…!!バカ!バカバカ!心配させないでよ…!」


寝てる俺に泣きながら抱き寄せる彼女、どうやらずっと看病してくれていたらしい。素直に嬉しかった。


「あ…、悪いな。ちょっとまだ、クラクラしてっけど──」


起き上がり、自分の体を見た。

目線を下に下げると。痣があったはずの腹部が綺麗さっぱり治っていた。


「────え、なんで?俺、確かあの爺さんにボコされて、」


「その子に、感謝するんじゃな。」


足音を消して忍者の如く爺さんが現れた。

正直この爺さんに対してはいい気持ちではない。だが今は話を聞くことにした。


「お前さんが気絶して寝込んでる間、この子は、あるかも分からない "癒しの薬草" を取りに、山々を超え、川を渡り探してくれていたんじゃよ。」


「そう、だったのか。… ありがとう。」


「バカ…。折角探して、見つかって使ったのに、あなたがなかなか目を覚まさないから。私 …… わたし … 。」


「本当にありがとう。お前のおかげで救われたよ。この恩は絶対に返すから。」


そう言い、彼女の髪をそっと撫でた。

撫でたかった訳ではない。ただすすり泣きしている彼女にどう表現したらいいか分からないだけだった。


「─────それとお前さん 。名前は?」


「──── 俺は小柳深海、コイツは海宮愛菜。」


「深海。お前さんはいい根性をしておる。正直、あの場でボコボコにやられて終わると思っておったが、深海は立ち上がった。」


「でも、負けた事には変わりない。爺さん。アンタは強かったよ。俺今までオタクやってて、格闘経験とか無かったけど。爺さんがちょーーつええ事は分かった。」


「ワシはもう老い耄れじゃ。現役の頃に比べたら、そこまで強くないわ。」


この瞬間、俺は一個考えが浮かび上がった。

この国は、討伐士がメインで動いていた。

異世界モノで言うところの、"騎士団" のような形なんだと思っている。

つまり、最強の討伐士になれば、香良洲を突き詰める事が出来るんじゃないか?

そしたら俺達は現代に帰れるかもしれない。

近道はここしかない。そう直感で判断した。


「なあじいさん。ひとつ頼みがあるんだ。」


「なんじゃ、そんな真剣な顔して。」


そう、これは真面目に、真剣な眼差しで言わないと伝わらない。

ここが近道ならやってやる。

最強になればいいんだろ。

アニメみたいな展開でワクワクするぜ。

俺なら出来る。そう信じてる。




そうして、俺は覚悟を決めた。




─── 俺に、稽古つけてくれないか?

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