第六話『本当の優しさ』
─────とりあえず、泊まる宿を探そう
二人の思考は一致していた。
完全に疲れきった体を癒したい。そんな気持ちしか思い浮かばなかった。そしてある安そうなホテルに来た。正直薄汚れててあまり好きじゃないが。
「すみません、今日ダブルの部屋って空いてますか?」
と尋ねた。そうするとやる気のなさそうな女性の店員さんらしき人が。
「いいっすけど、ダブルの場合結構高いっすよ?一泊300は貰わないと。」
300というのは、300円という訳では無い。
300万円という意味だ。
それを聞いた瞬間2人は少しドン引きした。
明らかに薄汚れているのにこの値段だという事実に対してだ。
「もう少し、安くなりませんか?」
「あー無理っすね。というか、 "人様の家" にお邪魔しようとしてるのに値下げ交渉っすか?うちは盗賊一家なんでね、お金貰わねえと無理なんですよ。お金ないなら帰って貰えます?」
「家?ここ、ホテルじゃないんですか?」
「… もしかしてあなた。原始人すか?今どき "ホテル" なんて。今は "民泊サービス" しかないっすよ。盗賊はそうやって金稼ぐしかねえんですよ。分かったらさっさと帰ってもらえます?」
「民泊、人様の家にお邪魔して宿泊料を稼ぐやり方が主流みたい、この未来では。」
心身ともに疲れきった彼女が口を動かし喋った。完全に行く場所が分からなくなってしまった。正直。あずさちゃんに会いたい。
その気持ちしか無かった。
その時──────
「おや、君らさん。なにやら疲れてるみたいだけど、大丈夫かい?」
一人のおばあさんが話し掛けてきた。多くの人が歩き、車は宙に浮き、夜でも眩しいほどの光が当たっている大都会の中、体育座りで座ってた俺たちに話し掛けてきてくれた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「どうぞ、少し狭くて汚いけど、ゆっくりしていってね。」
俺たちは、おばあさんの家に住まわせて貰うことになった。おばあさんの家は東商から少し離れた場所にあり、見た目は完全に昭和の匂いが残ってるような家で、妙に落ち着きすら覚えるほどだった。
「───お邪魔します。どうもすみません。何から何までご親切に、まさか無料で住まわせて貰えるなんて思わなかったので。とても助かりました。」
流石は生徒会長、年上への接し方や礼儀を弁えている。
「いいのよ、あなた達は、どこか雰囲気が孫に似ててね。困った顔をしてたから。今あたしたちはおじいさんと二人暮らし。1階はあたし達で、2階は空き部屋になってたから。自由に使っておくれ。」
何から何まで親切な印象を受けた。
なにより未来に飛ばされた事によって忘れていた "実家のような安心感" というのを再確認出来ていた。
「じゃあ、お言葉に甘えて。使わせていただきます。」
「はいよ。あ、ご飯出来たら呼ぶから。2階にいなさいな。」
2人は荷物を置きに2階へ上がった。2回への階段は狭く木の軋む音が聞こえ、少し不安だったが、部屋に着くと綺麗な状態で用意されていた。
「これ、本当にこれから住む俺たちの部屋かよ。さっきの300オンボロ民泊よりよっぽど最高じゃねえか!」
「確かに、こんくらいがちょうどいいわね!!最高最高!!でも少し気になるのは、私の部屋の半分くらいなトコ?」
「───お前ん家、でけえもんな。」
部屋には敷布団とベッドがひとつずつ置いてあり、勉強机にテレビ、ゲームまで置いてあるという豪華っぷり。
ゲームと言っても、3Dを超えて6Dの世界になっており。某ソードオンラインの様なゲームが置いていた。
「うおおおお…!!すっげぇ…!!これ、キリトが実際使ってたヤツにそっくりじゃねえか…!!」
完全にオタク全開で興味津々。
それを後ろから訳分からなそうに見つめる彼女。第三者目線で見れば、普段の光景に見えるこの雰囲気が、何より楽しかった。
「ふふっ、シンくん。楽しそう。私も何か探そうかな…」
────── バン!!!
その時 、ドアが物凄く強い音を立てて開いた。
少し腰の曲がった白髪のおじいちゃんが、物凄い剣幕でこちらを見て一言喋りだした。
「───── 表に出ろ。お前が討伐士に向いてるか。試してやる。」
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