近くて遠い


「へーキョウ君またチャンピオンになったんだぁ、凄ーい!」

「ああ」

「私も体育の徒競走で1位だったんだよー」

「陸上部には入らないのか?」

「んー先輩や同級生に誘われたけど私は帰宅部の方が性に合ってるなー、だって自由だし」

「そうか」

「そうだ!次の休みは奮発してカツカレー作ろっか!大会優勝祝い!」

「それは楽しみだな」


そんな他愛のない話をしていると、花人専用高等学校の校門に着いて、俺は澪を学校に見送る。


「それじゃあ学校頑張れよ、澪」

「キョウ君も頑張ってねー!」




「…旦那様は今日もお見送りかぁ、いやーラブラブですなぁ~」

「学生時代も澪ちゃんを送ってから学園に登校してたから、凄いよねー」


私達はそんなキョウ君と澪ちゃんの様子を、教室の窓から見下ろして見届ける。妙ちゃんはスポーツ雑誌を机の上で開いて、キョウ君が写ってる写真を見る


「鬼人部門総合格闘技、日本戦でまた金メダルだって!いやー順調に出世してますなー」

「凄いわよねぇ、しかもインタビューにも『どうしても嫁にしたい子が居るから頑張ってる』って答えてるんだもんねぇ」

「とんだ熱愛報道よねぇ。澪ちゃんが未成年だから一応伏せられてるけど、学校や近所じゃあ有名な話だもんねぇ」

「澪ちゃんも将来どうするのって言われては「キョウ君と結婚する!」って答えちゃってるから、本人達に隠す気0だもんねぇ」

「あーあ、澪ちゃん位は熱すぎるからごめんだけど、私も恋愛結婚したーい」

「妙ちゃんったら…まだ高校生活始まったばかりなんだから」

「だってよっちゃん、澪ちゃんが旦那様見付けたのは小1の時よ小1!しかも普段は花より団子って雰囲気作っておいて、その実恋人持ちって酷い詐欺じゃない!?」


妙ちゃんは興奮気味に机を叩いて立ち上がる。


「詐欺ってそんな…澪ちゃんにそんなつもりはないのよ」

「本人が自覚ないのが更に罪作りなのよ!だってこの前で告白されては「キョウ君と結婚するからごめんなさい」って断ったの何回目よ?私なんか告白すら1回もないのよ!!」

「ど、どうどう妙ちゃん…放課後(ファミレスで)飲みに行こうね」

「うう~…」


「おはよー、妙ちゃん元気そうだけどどうしたのー?」


そうこうしていると澪ちゃんが教室まで入ってきた。


「来たな初恋ブレイカー!今日こそは成敗してくれる!!」

「なにそれ魔法少女の新しい悪役!?ふはははは受けて立とう魔法少女タエ!」

「キエーイ!」


「ホームルーム始めるわよー!大人しく なさーい!!」


妙ちゃんと澪ちゃんが騒いでいると、先生が教室に入ってくると共に注意して、2人を自分の席に座らせる。


…妙ちゃんが荒ぶるのもちょっと分かる気もするな。


だって澪ちゃんは元気いっぱいで天真爛漫、成績よりも遊ぶ事を優先して自由に生きて、妙ちゃんが言ったように花より団子…恋より遊びみたいな性格をしている。なのにそんな澪ちゃんに惹かれて告白すれば既に恋人が居るのだから、そりゃある意味裏切られた様なものだろう。


それも並大抵の男じゃなくて、高瀬恭一郎たかせきょういちろうという学生時代から格闘界の超新星と呼ばれる超有名人で、格闘家としての超一流。図体も鬼神の如き強靱さで、一目見ようと息巻いた恋に敗れた男子は遠目で見て、遠目で見ただけでもとてもじゃないが敵わないと尻尾巻いて逃げ出す相手だ。


そんな四月一日澪わたぬきみおちゃんは周囲の人から『高嶺の花人』と呼ばれている。目の前にある綺麗な花なのに、守護神の如き鬼が守っている。


「…友達になったのは私が先だから、親友の地位は渡したくないなぁ」


近くにいるのに遠くに居るような澪ちゃんに、ちょっとばかりキョウ君に嫉妬した。

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