これからも
「さて早乙女君、君の敗因は1つ。無知は罪だった…それだけだ」
「…」
「えっ!?起きてるのか!?」
阿部さんの言葉に慌てて振り返ると、ベッドの上で瞼だけを上げて、早乙女は起きていた。
「早乙女!大丈夫か!?」
「…」
「何も知らないって事は楽だっただろう?頭を空っぽにして勉強せずに、遊んでばかりいたのは楽しかっただろう?でもそれだけじゃ駄目なんだ。遊んで食べて寝てるだけだなんて、そんなのメルヘンの世界じゃあるまいしそれだけだと、人間は文明の利器を得るまで進化しちゃいないさ」
「…」
「どうすれば良かったかはもう言わなくても分かるだろ?まさか新城ちゃんの心からの叫びが響かない程、君の脳味噌はツルツルに出来ちゃいないだろう?」
「…好きだと思った時、好きだと言えば良かった。…高校1年になったら勉強して就職する事を考えれば良かった」
「そうだね、それが出来ていれば未熟な鬼人・半神だけの箱庭の悪の芽を摘んだ功績を讃えられて、国は結婚を認めて初恋は成就したんだ」
「…そっか、そんな簡単な事も出来なかったのか俺は」
「…お前本当に馬鹿だな」
「…ああ」
「馬鹿野郎だ!そんな奴とは…一生友達のままだ!」
「そこは絶交じゃねぇんだな」
「当たり前だ!初めて会った時に約束しただろ、ずっと隣に居るって…馬鹿なお前の変わりに如何すれば良いか考えてやるよ!」
「…ありがとう、新城」
「…うん」
それだけ言うと早乙女は再び瞼を閉じた。
「本当に良い子だね新城ちゃん、あれはいい女に化けるよ」
「…充分いい女さ」
×××
早乙女の病室から出て駐車場に向かい、阿部さんが乗ってきた車で私の家まで送って貰う事になり、私と芦屋さんが後部座席に乗って阿部さんの運転する車で帰路に着いた。
「にしても凄かったですね芦屋さん、スプリンクラーを自由に作動させたり、プールの水を持ち上げたりして…半神ってあんな事も出来るんですね」
「単純な念力だ」
「幼少期からの過酷な訓練による賜物だよ。術の精密動作では芦屋君が随一さ」
「へ~」
「おい」
「因みに狐火って言葉がある位だから、1番得意なのは発火能力でね。何時もは火力で怪物を焼き尽くすけど、あの場には恋人の新城ちゃんが居たからわざわざその場にある水を利用したのさ」
「そうだったんだ…ありがとうございます芦屋さん」
「…(タクシー呼べば良かった)」
「ギャップ萌えって言葉がある位だからね、人間味のある所を見せた分だけ相手はメロメロになるもんだよ」
「運転に集中してくれ」
「分かったよ」
芦屋さんが片手で顔面を覆いながら、深く溜息を付きながらそう呟くと、阿部さんは運転に集中し始めた。
「…あれ?そういえば私の家って知ってるんですか?」
「んー?私はね、千里眼や予知能力系が得意でね。相手が考えている事を先読みしたり、事前に行動する事が得意なんだ。だから新城ちゃんの家の位置も大体分かるよ」
「へー、だから今日も芦屋さんがいち早く駆け付けてくれたんですね」
「…」
「あはははは!そうそう!私の力さ!」
「そういえば獣の耳も尻尾も無いですけど、何の半神何ですか?」
「それは秘密~♪」
「無駄だ新城、相手の秘密をどんどん暴露する癖に自分の事は秘密主義なんだ。俺でさえ何の半神は知らない」
「芦屋さんにも知らない事があるんですね」
「ああ…そうだな」
「着いたよ~」
「ありがとうござます」
阿部さんと芦屋さんに礼を言って、私は車のドアを開けて車を降りる。
「新城」
「はい?」
そう言って後ろを振り返ると、唇に柔らかい感触が当たった。
「わーお」
「これからも恋人としてよろしく、出来れば婚約者、結婚相手になるまで」
「…ひゃい」
その感触が芦屋さんの唇だと気付いたのは、唇が離れてそう真剣な表情で告げられた時だった。何とか返事を返すと、頭上からプチッと言う音が聞こえてから芦屋さんが離れていく。
その片手には私の頭に咲くピンクの花があった。
「此方の都合が付いたらデートする。メール、待っててくれ」
「…はい、待ってます」
そう返事を返せば芦屋さんは満足そうに微笑んで、車の中へと戻っていく。後部座席のドアが閉まると車は発進していった。
「…本当に格好良すぎるよあの人」
私は大きく溜息を吐きながら、真っ赤になった顔面を隠すように、両手で包みながら蹲った。
「…早乙女君に嫉妬したの?」
「ああ、10年の友としての歳月を前にな」
そう言って俺は新城の頭から摘んだピンクの花を見つめる。
俺を一目見てから頭の花の色を変え、真剣な表情で俺を見つめる眼差し。それと見た目の美しさとは裏腹な豪快な言動、表情、過去、知れば知るほど夢中になる。
「なるほど、コレがギャップ萌えって奴か」
「芦屋君の場合は一目惚れだけどね」
「…ふん」
現代編芦屋×新城 Fin
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