芦屋衣代という男


「先ずは俺の生まれを話しておこう。俺の遠いご先祖様は芦屋道満、嘗て天才陰陽師と言われた安倍晴明のライバル兼悪役だ」

「え?えっ!?」


芦屋さんの口調がガラリと変わったのもそうだけど、まさかの芦屋道満がご先祖様で二重の意味で吃驚した。


「安倍晴明に敗れた後、細々と血を連ねていき数千年。現代にて嘗て安倍晴明と同じ半神で、更に黒い九尾として産まれたのがこの俺だ。そこで親族一同は思ったんだ、『この子を依り代に現代に芦屋道満を蘇らせよう』とな」

「へ?」

「俺の衣代(いよ)という名も、漢字の通り依り代にするつもりで付けられた名だ。読みなんかどうでも良い、人間扱いされてなかったんだからな。それから虐待同然の躾と術の鍛錬が国に発見されるまで続いた、保護された後の俺は国が作った特殊部隊に入るのを条件に、一族への厳重な警戒をし家族との縁を切って貰った」

「…」

「先に言おう、親からはご先祖様の魂が入る人形同然に扱われ、ご先祖様同様の力を求めて虐待を行われていた俺に、家族愛というものは縁の無いものだ」

「…」

「今回お見合いを希望したのは厳しい修行から得た忍耐で、血への忌避感や嫌悪感を抑え込んできたが限界が来たから、30越えて重い腰を上げて漸く乗り出したと言うわけだ。最もうら若き女子高生がお見合い相手になるのは正直俺も予想外だった」

「…」

「今の話を聞いてこんな重い過去を背負った中年と、結婚するなんて御免だと思ったら、この見合いは無しにしてくれても構わない」

「…じ、上等です!」

「ん?」


私は勢い良くその場で立ち上がる、こうなりゃ自棄だ。本当はこんなに綺麗な人には此方も最初から美しい動作で入り、綺麗な動作で終わって道満さんを魅了したかった。


けど見合いするのが私が最初!更に躓きから始まってしまった以上、この人の中の私への減点は真逃れない。それなら逆に残念な美人な私らしく!ふっ面白ぇ女!って思わせる様なインパクトを与えて、今後見合いをする女性へのインパクトを打ち消す!


「私も今は美しい美少女ですが、小さい頃は鼻水垂らしながら男子に紛れて追いかけっこして冒険して、ゲームして漫画読んでワハハハハと笑ってきた男勝りだった黒歴史があります!これでも面倒臭い幼馴染みに振り回されてきた実績があります!暗い重たい過去や経歴がある程度、何だって言うんですか!アホらしい!」

「…」


芦屋さんが表情は変えずとも驚いている中、勢いに押して続けていく。


「正直言うと芦屋さんの見た目イケメンで一目惚れしました!それに加えて芦屋道満の子孫!?格好いい!どれだけ私のハートを射止めれば気が済むんですか!!」

「…つまり交際を続けて良いという事か」

「イエース!」


恋は盲目とは良く言ったものだ。私は勢い良く正座をして、そのまま頭を地面に着けて土下座する。


「不束者ですが!よろしくお願いします!!」

「…此方こそ、よろしくお願いします」


そう言って芦屋さんが私の前まで移動してきて、同じく頭を下げてきた。




…あれ?普通に交際が決まっちゃった?


「…最初から仕切り直しって出来ますでしょうか?」

「気が済むならこの部屋に入ってきてから初めても良いぞ。俺の中の評価は全く変わらんがな」

「…なら、良いです」

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