お見合い
いざ軽く化粧をして何時もの制服を着て(堅っ苦しい着物を着るんじゃ無くて本当に良かった)、指定された場所へと赴くとそこは高級和食店で、如何にもテレビで良く見た見合いの場!!という場所だった。
「どうぞ此方へ」
相手は未成年なのに丁寧な接待で、従業員も手慣れてるんだろうな…と呆けていたら、念入りに化粧した母さんにボサッとするんじゃない!と小声で注意され肩を押された。
「芦屋様は既にいらっしゃいますので、粗相の無い様お気を付けて…」
「ど、どうも…」
昨日書いてあった釣書に書いてあった
そんな事を思いながら私達は案内されるがままに、店の奥へと突き進む。突き当たりの個室へと案内されて、女将さんが一声掛けてから個室の襖を開けた。
「芦屋様、新城様がお見えになりました」
「(わぁ!)」
襖の向こう、座席に座っている人は漆黒のスーツを身に纏い、頭に黒い狐の耳を生やし、背後に九本の黒い尻尾を生やした半神だった。髪は黒いのに肌は私とは違った意味で歌舞伎役者みたいに白く、顔立ちも狐に似ているけどイケメンな形に整っていて、目は満月の様に輝いて見える。
「(すっっっごく綺麗な人~!)」
「新城由紀様?どうなさいました?」
「え?あっはい!ごめんなさっ!?」
呆けている時に女将さんに声を掛けられて、驚いて急いで室内に入ろうとする。だけど足が滑って思いっ切り爪先を襖の縁に躓いてしまい、転けそうになり転んでたまるかと逆の足で踏ん張る際にダァン!!と鈍い音が室内に響き渡った。
「「「…」」」
「…ごめんなさい」
「まぁまぁ元気でよろしいですこと」
女将さんが和ませてくれているけど、私は羞恥心で回れ右をして、帰りたい気持ちでいっぱいになった。
改めて座席に正座で座り、対面する事となり、先に芦屋さんから頭を下げてきた。
「釣書にも書いてありましたが改めて自己紹介をさせて頂きます。私が今回お嬢さんとお見合いを務めさせて頂く芦屋衣代です。どうぞよろしくお願いします」
「新城由紀です、こっ此方こそよろしくお願いします」
しまった、思わずどもってしまった。
「私は母の新城咲です。この度は───」
×××
それからの事は全然覚えていない。女将さんとお母さんと芦屋さんが何かを会話している気がするけど、全然頭に入らなくて、この綺麗な人の前でひたすら綺麗に食べなければと思い、食べた料理の味も良く分からない。
覚えている事と言ったら睫毛が長いなぁ。とか食べ方が凄い綺麗だなぁ。喋り方や仕草も一つ一つが美しくて、何だか子供の私が此処に居るのが場違いな気がしてきた。
「それでは後はお若い方同士にお任せして…」
「ええ…由紀、聞いてるの?由紀?」
「…え!?」
「あらやだ大丈夫?お母さん一足先に帰るから、芦屋さんとゆっくりお話ししてから帰りなさい」
「えっ!?お母さん帰っちゃうの!?」
「お母さんも残念だけどお見合いの主役は由紀だからね、それじゃあ頑張ってね」
「待ってお母さん行かないで!」
「ははは、由紀さんは御母様が大好きなのですね。何だか妬けてしまいます」
「あら芦屋さんったらお上手♡由紀、粗相の無い様にね」
「!?っ」
後半ボソッとだけどドスの効いた声に、背筋が凍える。それだけ言って一礼すると、お母さんと女将さんが退室してしまった。
「…(こ、こんな綺麗な人と一体何を話せと!?)」
「………さて新城由紀と言ったかな?」
「は、はい」
「一足先に断っておく。学生が夢見る様なラブラブな新婚生活は出来ないと思ってくれ」
「へ?」
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