瑠璃石が照らす彼方
@hukuroon
第一項 大森瑠希
水がゆっくりと流れ、たまに落ちる音が聞こえる。下水道の壁の中に作られた部屋の中で大森瑠希はいた。彼女は白の強化形状変形合金の防護服を身に纏っており、その形は彼女の思考によって巫女装束のようなものに変形している。
最初におかしいと思ったのは九歳、小学三年生のときでした。私は父に買い物を頼まれて家から五分とか十分とかしか離れていないスーパーに向かっていました。その途中で白猫を見つけて、触ろうと思って近づきました。その猫には目が有りませんでした。でも、もう遅かったんです。そのことに気づいた私の方をまっすぐ向いたその猫の尻尾はミチミチと、ブチャと音を立てて二又に別れて、耳の中から目が押し出されるみたいに出てきました。私は逃げました、必死に。その途中で財布を忘れたことに気づいた父と会って、父は私をだっこして一緒に逃げました。猫に父は腕にかすり傷をつけましたが、通報を受けた清伐隊に救助されて、私達は無事に家に帰ることができました。
「はは、どうした急に。今更感謝を述べたとして私が君を許すと思っているのか。君はその恩人たちの長に拷問を行い、その情報を使ってこの国を、神を殺そうとしているのはもう知っている。」
部屋にはもう一人いる。日本国内閣総理大臣補佐兼國属清伐隊隊長、藤原東源が体のいたるところから出血し、台の上に拘束されていた。
「その『猫』とやらは知らないが、話を聞く限り変穢だろう。なんだ急に思い出話でもしてきて、冥土の土産とでもいうつもりかい。」
「少し違いますかね。その猫が世間に一般的に知られている名前でいうとしたら『岩戸の孔』。聞いたことがあるはずです。」
東源は驚いた顔を見せた後、顔をしかめ大森に問う。
「それだけで、私達を滅ぼすというのか」
私達が猫に襲われた次の日の夜に清伐隊が家にやって来て、私と父は政府の研究施設に行きました。最初は研究員にいくつかの質問をされた後、目についていくつもの検査をされて、問題は無かったと大人達が話してくれました。父の検査が終わるまで待っているように言われた私は寂しさを感じたのかその言いつけを破って一人でその施設を周っていた時に父の声が聞こえて、その声のする部屋の前に行きました。その部屋の扉は硝子製だったので中の様子が見えました。清伐隊の大人が悲鳴を叫ぶ父を炎が出ている刀で斬っていました。八回でした、父は八回斬られた時赤色の煙になって消えました。そこから家に帰るまでの記憶はありません。多分何事もなかったかのように振る舞えたのでしょうね。家に帰って一週間ぐらいは学校にも外にもいけませんでした。カップラーメンとか適当なものを食べていました。単身赴任していた母が家に戻ってきて、母が赴任しているところに引っ越しをすることになっていたと知りました。引っ越した後、政府の定期放送を見るようになりました。あの時、なんで父が死んだのかわかるかもしれないと思ったからです。でも、猫型の変穢の情報は一切政府から発表されず、そのまま私は中学に上がりました。中学校に上がったら親からスマホを買ってもらう約束でしたが、それより先に学校でパソコンが配られ、使い方の授業の一環として政府の変穢公開書を調べることになって私はその変穢を見つけようと思いました。でもやはりそれは見つけられませんでした。その時、友達が話しかけてきました。その友達は、少し人の気持を考えられないところがあって、ネットでレスバしてBANされたことを自慢するような、今考えれば最悪の人物でした。彼はとある変穢の公開書を見せてきて
「こいつ見てみて、この発見者バカじゃねぇ。情報的に明らかバケモンやん、なんで近づくんだよ。」
発見者の名前は、高倉真司。父の名前でした。彼を殴りそうになりましたけど、それよりもその変穢について知りたかったので自分のパソコンでその変穢のページに行き調べました。その変穢は「岩戸の孔」という名前で登録されていて、高さ二メートルほどの枝のなく毛むくじゃらの木のような外見であると記されていました。まるでそれに父が近づいて襲われたかのような書き方をされて、その公開書には父を使った実験がいくつも載っていて、その後に無事に開放されたと書かれていました。でもそれはおかしいですよね、父は政府に捕まってすぐに殺されたはずなのに。だから私はその時、政府が国民に対して情報操作を行っていると気づきました。
大森は椅子に座りコーヒーを飲む。東源は血を体中から落としながらかすれた声で大森に問いかける。
「だから政府を、この國を滅亡させると?」
「これはあくまで始まりです。それからの動きはあなた達が既に持っている情報通りですよ。」
高校に上がるまで私はひたすら勉強とトレーニングをしました。政府に潜り込み、父の真相を探るためでした。高校に上がり、一番近くだった出雲研究所に出願届を出し試験を受け無事に合格しました。研究員助手として最初は仕事をし、様々な変穢に出会いました。物理法則を完全に無視してどんなものでもくっつける接着剤、くぐると近くの草原の高さ百メートルに転移する鳥居、開けようとすると殺そうとしてくるカーテンとか、公開書に載っていないものまでいろんな変穢を研究しました。そこからすぐに研究員、博士となり東京の皇園研究所に派遣されることになりました。その研究所は一般人には公開されておらず、重要変穢だけが研究されている所です。そこについて覚えていることでいうと、とても広かったということです。広さはすくなくとも端から端まで一キロほどの長さ、全て行ったことはありませんがエレベーターの表記では一階から二十七階までありました。そこで研究されているのはほとんどが公開されておらず、危険で、有益な変穢ばかりでした。町や州を簡単に滅ぼせるものばかりで中には国すら一日で滅ぼせるような変穢も研究されていました。そしてもう一つ、この研究所の者しか知ることのできない、変穢の重要な研究記録を知ることができました。神様がいるそうです。変穢は全てその神様が生み出していてその神様は日本のどこかにいるということです。あなたも知っての通りですよね。でも、本当は違うんですよ。その真相、厳密に言えば予想でしかないのですがそれを知った時に私はこの国を、その神を滅ぼすことを誓ったんです。そのためには人と物資が必要でした。私は外に出て反政府組織、そして周辺諸国の反日団体に協力を求め、彼らと共に今の「開闢僧」と呼ばれる組織をつくりました。これすら予想外だったんでしょうね。その研究所には外部の人間と内部から外部に出た者に対して忘却性を与えますから。でもそれは変穢によるものです。私の能力は知ってますよね。変穢の影響を操作する能力、そのおかげで私はその研究所を出ても忘れることなく彼らと情報と物資を共有できました。
そして一週間前、彼らと共に私は皇園研究所を中心として全国の研究所を襲撃しました。そこで使えそうな変穢、情報、人材を集めてそれらを使い政府の主要施設を襲わせています。そしてそこであなたを捕らえ私の部屋に持ってきました。
「なぜ、私だ。総理や研究首席でも良かっただろう。」
「彼らは私と同じように人間ながら変穢に対して耐性と特異な能力を持っています。逃げられたんですよ。」
「違う、なぜそれを私にだけ話すと言っている。」
大森はまたコーヒーを飲む。もはやそれから湯気は立っていなかった。
「私以外にもこの真実を知れる者があなたしかいなかった。ここまでの話を聞いて正常でいられる人は特異な者を除いてあなたしかいなかった。」
「神の真実というものに内閣総理補佐官である私でさえ知らないものがあると。」
「知らないはずです。だってこれは私以外には気づくことすらできないものですから、真実というのはとてもシンプルでおぞましいものでした。神は
彼らの部屋のちょうど真上で何かが爆発した。爆音と揺れが部屋に伝わる。東源は呆然とした顔をして、大森をひたすら見つめていた。それは爆発の衝撃に驚いたわけではなく、彼女の話した真相に対してであった。
「本当に言っているのか。それが真実だというのか。」
「ええ、でもこれだけだと何も伝わらないと思います。ですからもう少し続きを話しましょう。大丈夫です。作戦が次の段階に進むまでは、あと一時間もあります。」
場面は変わる。皇園研究所二十三階会議室にて対開闢僧反逆事変対応会議が行われていた。その会議の議長、方齋 旭は言う。
「それではこれより開闢僧に対して宣戦布告を行い、欧米諸国と連携を取りこの事変を収める。以上が決定された事項だ。」
第二話 開闢事変に続く
瑠璃石が照らす彼方 @hukuroon
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