第19話「星霊の誓い」




朝靄に包まれた北斗学園の校門前で、星川綺羅は立ち止まった。昨日までとは違う空気が漂っているような気がする。星霊大会での激闘から一夜明け、今日から彼女たちは新たな一歩を踏み出すことになる。


ポケットに入れた星霊カードが、かすかに温もりを帯びていた。北極星のカードは、まるで綺羅の心の高鳴りに呼応するように、微かな光を放っている。


「綺羅ちゃーん!」


後ろから明るい声が響き、振り返ると蠍島アカネが小走りで近づいてきた。その横顔には、いつもの笑顔の中にどこか緊張の色が混ざっているように見える。


「おはよう、アカネ。珍しく早いね」


「うん...昨日、全然眠れなくて」


アカネは少し俯きながら、制服のポケットから自身の蠍座のカードを取り出した。カードの縁には、これまでにない深い赤みを帯びた模様が浮かび上がっている。


「私のカード、昨夜から様子が変なの。まるで...何かを伝えようとしているみたい」


その言葉に、綺羅は思わず自分のカードを見つめ直した。確かに、星霊大会を経て、カードたちにも変化が起きているのかもしれない。


「おっと、朝から深刻な顔してるな」


声をかけてきたのは織部翔だった。両手には分厚いファイルを抱え、少し疲れた表情を見せながらも、口元には自信に満ちた笑みを浮かべている。


「これ、昨日の夜から考えてたんだ。新星霊団の組織案と活動計画」


ファイルを開くと、細かな文字で書き込まれた資料が何枚も重なっている。オリオン座の戦略家らしい緻密さだ。


「あ!天宮さんたち!」


アカネが指差す方向には、天宮双葉と柊が歩いてきていた。だが、いつもと様子が違う。双葉は珍しく物思いに沈んだ表情で、柊は腕を組んで何かを考え込んでいるようだ。


「どうしたの?」

綺羅が声をかけると、双葉は少し驚いたように顔を上げた。


「あ、綺羅ちゃん...実は、昨夜」


双葉は言葉を切り、柊と視線を交わす。柊が小さく頷くと、双葉はゆっくりとカードケースを開いた。


「私たちの双子座のカードが...突然共鳴し始めたの」


取り出されたカードは、これまで見たことのない青と紫の渦を描いていた。その模様は、まるで二つの魂が交わり合うかのように、ゆっくりと脈動している。


その時、校舎の上空で異変が起きた。全員のカードが一斉に光り始め、その光は上空へと伸びていく。青、赤、金、紫...それぞれの光が交差し、巨大な星座図を描き出した。


「これは...!」


校門の向こうに、二つの姿が現れる。銀色の髪をなびかせた星見凛と、静かな微笑みを浮かべる秋月みらい。


「素敵な朝ね」

みらいが言う。

「新星霊団の船出にふさわしい」


「そうね」

凛が空を見上げる。

「星々も、祝福を送ってくれているわ」


突然、澄んだ鐘の音が響き渡る。朝の始業を告げるチャイムだ。


「放課後、第二音楽室に来てちょうだい」

みらいが告げる。

「大切な話があるわ」


「音楽室...?」

綺羅が不思議そうに首を傾げる。


凛が神秘的な微笑みを浮かべながら答えた。

「ええ。星霊術の真実は、意外なところにあるのよ」


二人の姿が朝もやの中に消えていく頃、上空の星座図も薄れていった。残されたメンバーたちは、まだ温かさの残るカードを握りしめながら、これから始まる物語に思いを巡らせていた。


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