第13話「決戦の序曲」



決勝戦当日。


体育館は満員の観客で溢れていた。地域予選とは思えない熱気が、場内を包んでいる。


「すごい人...」

星川綺羅が控室の窓から外を眺める。


「当然ね」

蠍島アカネが説明を始める。

「陽南学園の"太陽楽章"と、私たちの"星霊シンフォニー"の対決だもの」


「でも」

天宮柊が眉をひそめる。

「何か...様子が変」


確かに、観客席の一角に、黒いスーツの集団が目立つ。


「あれは...」

織部翔の表情が曇る。


「来てたか」

振り向くと、日向晄が立っていた。

「黒の結社、もう動き出してる」


「どういうこと?」

天宮双葉が不安げに尋ねる。


「おそらく...」

晄の声が低くなる。

「この試合を、実験データにするつもりだ」


重苦しい空気が流れる。


「私たち...本当に」

春野カズマが弓を握りしめる。

「勝てるのかな」


その時。


「大丈夫」


秋月みらいが、静かに現れる。


「あなたたち、忘れてない?」

みらいが優しく微笑む。

「星霊術の、本当の力を」


「本当の...」


「そう」

みらいが頷く。

「心を通わせること。それこそが——」


突然、場内が暗転する。


「な...何!?」

双葉が声を上げる。


暗闇の中、一筋の光が差し込む。そして、見覚えのある声が響く。


「お待たせしました」


黒いローブの人影が、アリーナの中央に立っていた。


「私から、特別ルールを告知させていただきます」


場内が静まり返る。


「この決勝戦」

ローブの男が高らかに宣言する。

「勝者には、星霊術の秘密を明かそう」


観客からどよめきが起こる。


「それに...敗者は」

男の声が不気味に響く。

「星霊術士としての資格を、永久に失う」


「そんな...!」

アカネが声を震わせる。


しかし、綺羅は静かに前を向いていた。


「みんな」

彼女の声が、不思議な力強さを帯びる。

「私たちの音楽...届けよう」


仲間たちが顔を上げる。


「そうだね」

晄も微笑む。

「最高の演奏会にしようか」


決戦の幕が、今上がろうとしていた。




「決勝戦、開始!」


審判の声が響く中、両チームが向かい合う。


「星霊共鳴!」


眩い光が交錯する。陽南学園の金色の輝きと、北斗学園の六色の光。


「太陽楽章、開演」

日向晄の声が響く。


今度は、前回とは違う輝きを放つ陽南チーム。より力強く、しかし...どこか優しさを含んだ光だった。


「第一楽章」

晄が微笑む。

「"光明和音"」


放たれる光は、破壊的な力ではなく、まるで本物の音楽のような波動となって広がる。


「これは...!」

織部翔が驚きの声を上げる。


「気付いたかな?」

晄の声が響く。

「僕たちも、変わったんだ」


観客席の黒服たちが、ざわめき始める。


「私たちも!」

星川綺羅が前に出る。

「星霊シンフォニー!」


六色の光が、美しいハーモニーを奏でる。


二つの音楽が、体育館を満たしていく。それは戦いではなく、まるで共演のよう。


「な、何をしている!」

黒ローブの男が叫ぶ。

「これは戦いだ!力を競う場だ!」


しかし、誰もその声に耳を貸さない。


陽南の太陽楽章と、北斗のシンフォニーが、徐々に一つの音楽となっていく。


「これが...」

蠍島アカネの目に、涙が光る。

「本当の星霊術...」


観客たちも、その美しさに魅了されていく。黒服たちでさえ、その場に立ち尽くすしかない。


「フィナーレよ」

綺羅が晄に目配せする。


「ああ、一緒に」

晄が頷き返す。


「スターリンク・オーケストラ!」


金色と六色の光が、完璧な調和を見せる。その波動は、体育館全体を包み込み、そして...黒ローブの男をも照らし出す。


「な...何だ、この力は...」

男が動揺を隠せない。

「こんなはず...」


光の中で、男のローブが溶けていく。そこに現れたのは...。


「お父さん...?」

晄が絶句する。


陽南学園の理事長...日向昇が、そこに立っていた。


「なぜ...」

晄の声が震える。


「息子よ」

昇の表情が苦しみに歪む。

「星霊術を、強くしたかった。私たちの時代の屈辱を...」


「でも」

綺羅が静かに言う。

「強さは、これだけじゃない」


場内に満ちる温かな光。心と心を繋ぐ、優しい力。


「試合終了!」

審判が声を上げる。

「決勝戦...両者勝利!」


前代未聞の判定に、場内がどよめく。しかし、それは喜びのどよめき。


「これでいい」

秋月みらいが微笑む。

「新しい星霊術の、始まり」


光は消えても、その余韻は消えない。


心の中で響く、新しい音楽。それは、これからも続いていく。







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