第8話「予期せぬ敗北」



「試合開始!」


審判の声が響き渡る。


「星霊共鳴!」


両チームが同時に変身を開始する。輝く光に包まれる体育館。


しかし、その瞬間だった。


「星見流・幻惑の光!」


星見凛の放った光が、まるで万華鏡のように空間を歪ませる。


「なっ...!」

春野カズマが弓を構えるが、標的が定まらない。


「これは...」

織部翔が唸る。

「空間自体を操作している...!」


「みんな、気を付けて!」

蠍島アカネが警告を発する。

「彼女たちは——」


言葉が途切れた瞬間、攻撃が始まった。


星見チームの動きは、完全に読めない。まるで空間を自在に移動するかのよう。


「くっ...!」

天宮双葉が攻撃を放つが、空を切る。

「当たらない...!」


「冷静に」

天宮柊が分析を試みる。

「必ず規則性が...」


しかし、次の瞬間、柊の体が宙に浮く。


「柊!」

双葉が駆け寄ろうとするが、自分の足元も不安定になっていく。


「重力まで...操れるの?」

アカネが驚きの声を上げる。


星見凛が不敵な笑みを浮かべる。

「どう?私たちの"空間共鳴"」


「そんな...」

星川綺羅は必死に状況を把握しようとする。

「私たちの共鳴陣が...まったく機能していない」


チームの連携が完全に崩されていく。個々の力を発揮する余地すら与えられない。


「はぁ...はぁ...」


わずか数分で、綺羅たちは全員が膝をつかされていた。


「試合終了!」

「勝者、星見学園!」


あまりにもあっけない結末に、場内が静まり返る。


星見凛が綺羅たちの前に立つ。

「これが現実よ。井の中の蛙が、大海を知らずにいた結果」


その言葉に、誰も反論できない。


「さて、次の試合の準備を...」

審判が場内を整理し始める。大会は、容赦なく進んでいく。


控室に戻った綺羅たち。重い沈黙が流れる。


「私たち...」

双葉の声が震える。

「まだまだ、だったんだね」


「あの技は...」

アカネが唇を噛む。

「黒の結社の技術を応用したものよ。きっと」


「だとしても」

翔が静かに告げる。

「実力の差は、紛れもない事実だ」


綺羅は黙って窓の外を見つめていた。朝日が眩しい。


「綺羅ちゃん...」

カズマが心配そうに声をかける。


「大丈夫」

綺羅は振り返り、微笑んだ。

「これは...終わりじゃない」


「え...?」


「今日の敗北は、私たちに必要だった」

綺羅の声が、強さを取り戻していく。

「何が足りないのか、何を学ばなければいけないのか...はっきりと分かった」


全員が、綺羅の言葉に目を見開く。


「だから...」

綺羅は仲間たちを見つめた。

「もう一度、基礎から始めよう。私たちの戦い方を、一から作り直そう」


その言葉に、少しずつ頷きが返ってくる。


敗北の苦さの中に、新たな決意が芽生え始めていた。




「まずは個人練習から」

織部翔が説明を始める。

「でも、今度は違う」


翔は六枚のカードを床に並べる。


「お互いのカードを交換して練習してみよう」


「え?」

天宮双葉が驚く。

「それって可能なの?」


「北極星には全ての星と共鳴する力がある」

翔が綺羅を見る。

「なら、私たちも互いの力を理解できるはず」


「なるほど」

蠍島アカネが頷く。

「相手の立場になって、動きを理解する」


それぞれが、普段使わない星座のカードを手に取る。


最初は戸惑いの連続だった。


「うわっ!」

春野カズマが蠍座の力を使おうとして転ぶ。

「これ、全然違う感覚だね」


「私も」

天宮柊がオリオン座の力に苦戦する。

「翔先輩の動き、こんなに難しかったなんて...」


しかし、時間が経つにつれ、少しずつ変化が現れ始める。


「あ...」

柊が気付く。

「これ、私の癖かも」


「どういうこと?」

双葉が尋ねる。


「私、いつも後ろに下がろうとする。でも翔先輩のカードを使うと、それができない」

柊が説明する。

「だから、新しい動きを考えないと...」


「私も分かったわ」

アカネが双葉のカードを握りしめる。

「いつも冷静さを求めすぎて、チャンスを逃してた」


次々と、新しい発見が語られる。


「皆、すごいね」

綺羅が感心する。

「こんなに早く気付けるなんて」


「いや」

カズマが弓を下ろす。

「気付けたのは、綺羅が私たちを繋いでくれたから」


「え?」


「そうよ」

アカネが説明する。

「あなたの北極星の力が、私たちの星霊波動を調和させてるの」


「まるで...」

双葉が目を輝かせる。

「指揮者みたい!」


「指揮者...」

翔がその言葉を噛みしめる。

「そうか...これが私たちの答えなのかもしれない」


「どういうこと?」

綺羅が首を傾げる。


「今まで私たちは、ただ力を合わせようとしてた」

翔が説明を始める。

「でも、本当に必要なのは...」


「調和ね」

アカネが言葉を継ぐ。

「それぞれの個性を活かしながら、でも一つの音楽のように」


「オーケストラみたいに!」

双葉が飛び跳ねる。

「私たち、それぞれが違う楽器の演奏者で、綺羅ちゃんが指揮者...!」


「なるほど」

柊が静かに微笑む。

「だから私たちには、基礎練習が必要だった」


「そうだね」

カズマも頷く。

「個々の音を磨いて、そして...」


「一つの星の歌を奏でる」

綺羅が言葉を添える。


全員の表情が、希望に満ちていく。


「よし」

翔が宣言する。

「これが私たちの新しい戦い方。星霊シンフォニー」


朝日がより強く差し込み、体育館を黄金色に染める。



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