第7話「予選の朝」
早朝の体育館に、緊張感が漂っていた。
「星霊大会地域予選、まもなく開始です」
場内アナウンスが響く中、星川綺羅は深く息を吸った。
「緊張してる?」
織部翔が声をかける。
「ううん...大丈夫」
だが、その声は少し震えていた。
体育館は既に各校の選手たちで賑わっていた。様々な星座の紋章を持つ星霊術士たち。その中には見覚えのある顔も。
「あ...」
獅子堂レオの姿を見つけ、綺羅は思わず身を竦ませる。しかし、レオは彼女に気付くと軽く頷いただけだった。
「綺羅ちゃん、見て!」
天宮双葉が興奮した様子で指さす。
「あれが去年の優勝校...!」
白銀の制服に身を包んだチーム。「星天学園」のメンバーたちだ。
「圧倒的な星霊波ね...」
蠍島アカネが眉をひそめる。
「僕たちも負けてられないね」
春野カズマが弓道着の袖を直す。
「まずは予選突破」
天宮柊が冷静に告げる。
「一戦一戦、全力で」
綺羅は自分のチームを見渡した。個性豊かなメンバーたち。最初は別々だった彼らが、今では大切な仲間になっている。
「選手集合!」
審判の声が響く。
「行こう」
翔が前を向く。
「私たちの、新しい戦いが始まる」
選手たちが整列する中、綺羅は胸のカードに手を当てた。北極星が、いつもより強く脈打っているような気がした。
「第一回戦、星天学園VS月影学園!」
「第二回戦、陽南学園VS北斗学園!」
次々と対戦カードが発表される。そして——
「第三回戦、星見学園VS輝星学園!」
綺羅たちの試合が告げられた。
「星見...」
アカネが呟く。
「あの学園は...」
「知ってるの?」
双葉が尋ねる。
その時、対戦相手のチームと目が合った。その中心にいた少女が、不敵な笑みを浮かべる。
「星見凛...」
アカネの声が震える。
「黒の結社と関係のある...」
場内に開会の鐘が鳴り響く。
綺羅は強く拳を握った。これは単なる大会ではない。真実へと続く戦いの始まり。
「みんな...」
綺羅は仲間たちを見つめた。
「頑張ろう」
その言葉に、全員が静かに頷く。
予選の幕が、今上がろうとしていた。
「試合開始!」
審判の声が響き渡る。
「星霊共鳴!」
両チームが同時に変身を開始する。輝く光に包まれる体育館。
しかし、その瞬間だった。
「星見流・幻惑の光!」
星見凛の放った光が、まるで万華鏡のように空間を歪ませる。
「なっ...!」
春野カズマが弓を構えるが、標的が定まらない。
「これは...」
織部翔が唸る。
「空間自体を操作している...!」
「みんな、気を付けて!」
蠍島アカネが警告を発する。
「彼女たちは——」
言葉が途切れた瞬間、攻撃が始まった。
星見チームの動きは、完全に読めない。まるで空間を自在に移動するかのよう。
「くっ...!」
天宮双葉が攻撃を放つが、空を切る。
「当たらない...!」
「冷静に」
天宮柊が分析を試みる。
「必ず規則性が...」
しかし、次の瞬間、柊の体が宙に浮く。
「柊!」
双葉が駆け寄ろうとするが、自分の足元も不安定になっていく。
「重力まで...操れるの?」
アカネが驚きの声を上げる。
星見凛が不敵な笑みを浮かべる。
「どう?私たちの"空間共鳴"」
「そんな...」
星川綺羅は必死に状況を把握しようとする。
「私たちの共鳴陣が...まったく機能していない」
チームの連携が完全に崩されていく。個々の力を発揮する余地すら与えられない。
「はぁ...はぁ...」
わずか数分で、綺羅たちは全員が膝をつかされていた。
「試合終了!」
「勝者、星見学園!」
あまりにもあっけない結末に、場内が静まり返る。
星見凛が綺羅たちの前に立つ。
「これが現実よ。井の中の蛙が、大海を知らずにいた結果」
その言葉に、誰も反論できない。
「さて、次の試合の準備を...」
審判が場内を整理し始める。大会は、容赦なく進んでいく。
控室に戻った綺羅たち。重い沈黙が流れる。
「私たち...」
双葉の声が震える。
「まだまだ、だったんだね」
「あの技は...」
アカネが唇を噛む。
「黒の結社の技術を応用したものよ。きっと」
「だとしても」
翔が静かに告げる。
「実力の差は、紛れもない事実だ」
綺羅は黙って窓の外を見つめていた。朝日が眩しい。
「綺羅ちゃん...」
カズマが心配そうに声をかける。
「大丈夫」
綺羅は振り返り、微笑んだ。
「これは...終わりじゃない」
「え...?」
「今日の敗北は、私たちに必要だった」
綺羅の声が、強さを取り戻していく。
「何が足りないのか、何を学ばなければいけないのか...はっきりと分かった」
全員が、綺羅の言葉に目を見開く。
「だから...」
綺羅は仲間たちを見つめた。
「もう一度、基礎から始めよう。私たちの戦い方を、一から作り直そう」
その言葉に、少しずつ頷きが返ってくる。
敗北の苦さの中に、新たな決意が芽生え始めていた。
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