第6話「射手座の矢」
「黒の結社...」
放課後の屋上で、蠍島アカネの言葉が重く響く。
「星霊術士の力を、暗黒に変えようとしている組織」
アカネは静かに続ける。
「そして、その実験場として利用しようとしているのが...」
「星霊大会」
織部翔が腕を組む。
「だから、みらい先輩も警戒していたんだ」
星川綺羅は黙って話を聞いていた。天宮双葉と天宮柊も、いつもの明るさを失っている。
「でも、なんで大会なの?」
綺羅の問いに、アカネは深くため息をつく。
「それは——」
突然、轟音が響き渡った。
「これは...!」
翔が屋上の端に駆け寄る。
校庭に、巨大な侵蝕者が出現していた。しかも一体ではない。三体、四体...次々と現れる。
「まさか、昼間から...」
柊が眉をひそめる。
「いいえ」
アカネの表情が険しくなる。
「これは...実験の始まり」
その時、侵蝕者たちの間から一本の光の矢が放たれた。矢は見事に一体の侵蝕者を貫き、それを消滅させる。
「あれは...」
校庭の端に、一人の少年が立っていた。弓道着姿で、背の高い彼は凛とした佇まいを見せていた。
「春野カズマ...」
アカネが呟く。
「射手座の星霊術士」
「知ってるの?」
双葉が尋ねる。
「ええ。彼は...」
言葉が途切れたのと同時に、カズマが彼らの方を向いた。そして、大きな声で叫ぶ。
「おーい!手伝ってくれないか!?」
「えっ?」
綺羅が驚く間もなく、新たな侵蝕者の群れが現れ始めた。
「こりゃ、話は後だな」
翔が笑みを浮かべる。
「実戦訓練といこうか」
「待って」
アカネが全員を制する。
「これは罠かもしれない。黒の結社は...」
「大丈夫」
綺羅が静かに、しかし力強く告げる。
「私には分かる。あの人の矢に、邪気は感じない」
「綺羅ちゃん...」
「よし、決まりだね!」
双葉が元気よく拳を突き上げる。
「みんなで戦うよ!」
「星霊共鳴!」
五つの光が、夕暮れの空に輝きを放った。
校庭に降り立った六人の星霊術士。夕陽を背に、彼らは侵蝕者の群れと対峙していた。
「作戦は?」
春野カズマが尋ねる。その手には星の光で形作られた弓が輝いていた。
「この数は...」
織部翔が周囲を見渡す。
「単純な戦力分散は危険だな」
「私が毒で足止めは...」
蠍島アカネの言葉が、柊に遮られる。
「でも数が多すぎる」
侵蝕者たちが徐々に包囲網を狭めてくる。
その時、星川綺羅の胸のカードが反応した。
「この感覚...」
綺羅は目を閉じ、周囲の星霊波動に意識を向ける。
「みんなの力が...呼応している?」
「気付いたか」
カズマが微笑む。
「僕も感じていた。君たちの中に、特別な可能性を」
「どういうこと?」
双葉が首を傾げる。
「北極星には、全ての星と共鳴する力がある」
カズマが説明を始める。
「そして、射手座には...その力を増幅する能力がある」
「まさか...」
翔の目が見開かれる。
「全員での星霊共鳴!?」
「理論上は可能」
アカネが頷く。
「でも、そんな記録は...」
その時、侵蝕者たちが一斉に襲いかかってきた。
「考えている時間はない!」
カズマが弓を構える。
「信じよう、僕たちの絆を!」
綺羅は深く息を吸い、目を閉じた。
「みんな...力を貸して!」
純白の光が広がり始める。それは次第に、様々な色を帯びていく。
翔のオリオン座の青。
双子の青と紫。
アカネの深紅。
カズマの金色。
「これが...私たちの光」
六色の光が螺旋を描き、天高く伸びていく。
「スターリンク・ハーモニー!」
放たれた光の矢は、まるで流星群のように夕空を染め上げた。
侵蝕者たちは次々と浄化されていく。しかし、それは破壊ではなく、優しい光に包まれるような消え方だった。
「これが...北極星の本当の力」
カズマが感嘆の声を上げる。
光が収まると、校庭には六人の姿だけが残されていた。
「やった...」
綺羅がほっと息をつく。
「みんなのおかげ...」
「違うよ」
双葉が笑顔で告げる。
「綺羅ちゃんが、私たちを繋いでくれたんだよ」
「そうだね」
柊も珍しく微笑む。
「この力があれば...」
「ああ」
翔が頷く。
「大会でも、きっと...」
「そうそう!」
カズマが明るく言う。
「僕も、チームに入れてもらえないかな?」
「えっ?」
「実は僕も、黒の結社のことを調査していて」
カズマの表情が真剣になる。
「そして、この学校に来たんだ」
「もちろん!」
双葉が即答する。
「だって、もう仲間だもん!」
夕陽が沈みゆく空に、新たな希望の光が灯った。
「さぁ」
アカネが前を向く。
「これで準備は整ったわ」
「うん」
綺羅も強く頷く。
「私たち、きっと真実を暴ける」
一部完了
(次回、第二部「星霊大会編」へ続く)
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