第9話「新たな一歩」
放課後の学校屋上。夕暮れの空が、オレンジ色に染まっていた。
「いい?みんな位置について」
織部翔の声が響く。
星川綺羅を中心に、五人が円を描くように並ぶ。
「星霊シンフォニー...」
綺羅は深く息を吸う。
「私に、指揮が務まるかな...」
「大丈夫よ」
蠍島アカネが励ます。
「あなたの感性を信じて」
「準備OK!」
天宮双葉が元気に手を挙げる。
「柊も準備できてるよね?」
天宮柊は静かに頷く。背筋をピンと伸ばし、まるで本当のオーケストラの演奏者のように構える。
「弓の調子も良好」
春野カズマが弓を軽く引いてみせる。
「じゃあ...始めます」
綺羅は目を閉じ、北極星のカードを胸に当てる。
「一、二の...」
カードが輝き始める。その光が、まるで指揮棒のように空を描く。
「星霊共鳴...シンフォニー!」
六つの光が、夕暮れの空に浮かび上がる。
オリオン座の青。
双子座の青と紫。
蠍座の深紅。
射手座の金色。
そして、北極星の純白。
「第一楽章...」
綺羅の声が透明感を帯びる。
「始まりの調べ」
翔が最初の音を奏でる。オリオンの光が、まるでバイオリンの音色のように空気を震わせる。
続いて双子の二重奏。双葉と柊の力が、見事なハーモニーを生み出す。
「これが...私たちの音色」
アカネの深紅の光が、低音部のように全体を支える。
カズマの矢が、パーカッションのように鋭いリズムを刻む。
「すごい...」
翔が息を呑む。
「これまでとは、まったく違う」
光のハーモニーが、屋上を包み込んでいく。まるで本物の音楽のように、心に染み入ってくる。
「でも、まだ...」
綺羅が眉をひそめる。
「何か足りない」
その時だった。
「危ない!」
突然の叫び声と共に、黒い影が屋上に襲来する。
「侵蝕者!?」
双葉が驚きの声を上げる。
しかし、この侵蝕者は今までとは違っていた。その動きには、明確な意図が感じられる。
「まさか...」
アカネの表情が曇る。
「試験運用...始まってるの?」
「みんな!」
綺羅が叫ぶ。
「今の練習を活かして...!」
夕暮れの空に、新たな戦いの幕が上がる。
侵蝕者の放つ黒い波動が、屋上を震わせる。
「この動き...」
織部翔が声を潜める。
「まるで、私たちの動きを研究してるみたいだ」
「そう」
蠍島アカネが唇を噛む。
「黒の結社は、私たちの戦い方を分析して...」
再び襲い来る影。しかし今回は、以前より遥かに戦術的な動きを見せる。
「くっ...!」
天宮双葉が攻撃を放つが、巧みにかわされる。
「また当たらない...」
「冷静に!」
天宮柊が声を上げる。
「さっきの練習を思い出して」
その言葉に、星川綺羅はハッとする。
「そうだ...私たち、新しい力を...」
綺羅は目を閉じ、深く息を吸う。周囲の音が、徐々に遠ざかっていく。
代わりに聞こえてきたのは、仲間たちの心の音。
翔の冷静な判断力。
双葉の情熱的な突進力。
柊の繊細な観察力。
アカネの深い洞察力。
カズマの正確な狙撃力。
「みんな...聴こえる」
綺羅の声が、澄んだ音色のように響く。
「第二楽章」
両手を広げる綺羅。
「戦いの協奏曲」
純白の光が、指揮棒のように空を描く。
「翔先輩、序奏を!」
「了解!」
オリオンの青い光が、影の動きを追跡する。
「双葉、柊!バックコーラス!」
「「はい!」」
双子の力が、影の逃げ道を塞いでいく。
「アカネさん、基部を!」
「任せて」
蠍座の深紅が、影の足場を不安定にする。
「カズマさん...トドメを!」
「OK!」
射手座の矢が、完璧なタイミングで放たれる。
光のハーモニーが、影を包み込んでいく。しかし、今回は単なる攻撃ではない。まるで美しい音楽のように、影を浄化していく。
「消えた...」
双葉が息を呑む。
「でも、なんだか今までとは違う...」
「うん」
柊が頷く。
「より...優しい感じ」
影は消滅したが、そこに残ったのは小さな光の粒。それは静かに空へと昇っていった。
「これが、私たちの新しい力」
アカネが感慨深げに呟く。
「まだ完璧じゃない」
翔が冷静に分析する。
「でも、確実に前に進んでる」
「綺羅ちゃん、すごかったよ!」
カズマが笑顔で近づく。
「本当の指揮者みたいだった」
綺羅は少し照れながら、でも確かな手応えを感じていた。
「ありがとう、みんな」
空を見上げる綺羅。
「これが、私たちの奏でる星の歌」
夕暮れの空に、小さな星が瞬き始めていた。まるで、彼らの演奏に拍手を送るように。
「さて」
翔が全員を見渡す。
「明日からは、もっと厳しい練習が始まるぞ」
「「「はーい!」」」
その声には、もう迷いはなかった。
新しい一歩を踏み出した彼らの物語は、まだ始まったばかり。
夜空に輝く星々が、その成長を見守っていた。
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