第3話「獅子の挑戦」



「はぁ...はぁ...」


満月の光が照らす校庭で、星川綺羅は膝に手をついて息を整えていた。


「まだまだだね」


織部翔の冷静な声が響く。今夜も特訓は厳しかった。


「でも、前より長く戦えるようになったよ!」

天宮双葉が励ますように声をかける。

「そうだね」

天宮柊も静かに同意する。


星霊術士としての訓練が始まって一週間。綺羅は少しずつだが、確実に力をつけていた。


「休憩にしよう」

翔が提案する。

「明日は——」


その言葉は途中で途切れた。校庭に強い風が吹き抜け、木々が大きく揺れる。


「この気配は...」

柊が警戒するように周囲を見渡す。


月明かりの中、一人の少年が立っていた。


「やっと見つけた。北極星の星霊術士」


濃い茶色の髪を逆立て、鋭い眼光を放つ少年。その姿は、まさに獅子のようだった。


「獅子堂レオ...」

翔の声に緊張が走る。

「星霊大会の優勝候補が、どうしてここに」


「星霊大会...?」

綺羅が聞き返す間もなく、レオが一歩前に出た。


「聞いたぜ。北極星の加護を受けた新人がいるってな」

レオの唇が不敵な笑みを作る。

「俺が試させてもらおう。お前の実力ってやつをな」


「ちょっと待って!」

双葉が綺羅の前に立ちはだかる。

「綺羅ちゃんはまだ——」


「いいよ」


綺羅の声に、全員が振り向いた。


「私...戦います」


「綺羅ちゃん...」


「面白い」

レオが笑う。

「セリフだけは一人前みたいだな」


「星川さん、本気なの?」

翔が真剣な表情で尋ねる。

「彼は——」


「分かってます」

綺羅は静かに頷いた。

「でも、いつまでも守ってもらってばかりじゃ...」


月明かりの下、少女の決意が固まる瞬間だった。


「いいだろう」

レオがカードを取り出す。それは獅子座の紋章が刻まれた金色のカードだった。

「見せてもらおうか。北極星の力ってやつを!」


「星霊共鳴!」


二つの声が夜空に響き渡った。レオの体を包む光は、燃え盛る炎のように赤く激しい。対して綺羅の光は、静かに、しかし力強く輝いていた。


変身を終えた二人が向かい合う。レオの装束は獅子の鬣を思わせる荒々しいデザインで、全身から王者の威厳が漂っていた。


「いくぜ...!」


レオの体から放たれる圧倒的な気迫に、綺羅は思わず後ずさった。


「星川さん!」

「綺羅ちゃん!」

「気をつけて!」


仲間たちの声が響く中、戦いの火蓋が切って落とされた。




「レオ・ブレイブフィスト!」


炎をまとった拳が、閃光のように放たれる。綺羅は咄嗟に身を捻って避けたが、拳が放つ熱波だけでも強烈な威力を感じた。


「おいおい、逃げてばかりか?」

レオの挑発的な声が響く。

「これが北極星の力なのか?」


「まだ...!」


綺羅は反撃を試みる。純白の光弾を放つが、レオはそれを片手で払いのける。


「星川さん、落ち着いて!」

翔の声が届く。

「相手の動きをよく見て!」


「そんな余裕...!」


言葉が途切れる瞬間、レオの拳が綺羅の腹を直撃した。衝撃で吹き飛ばされる体を、どうにか受け身で支える。


「はぁ...はぁ...」


膝をつく綺羅。その姿に、レオが眉をひそめた。


「これで終わりか?」

レオの声に失望が混じる。

「噂に聞いた北極星の星霊術士は、こんなものなのか?」


「綺羅ちゃん、もう無理だよ!」

双葉が叫ぶ。

「このままじゃ...!」


その時だった。


綺羅の胸のカードが、不思議な輝きを放ち始めた。


「この光は...」

翔の目が見開かれる。


綺羅の心の中で、星々の声が響き始める。


「恐れることはない」

「己の力を信じよ」

「我々が共にいる」


ゆっくりと立ち上がる綺羅。その瞳に、新しい光が宿っていた。


「まだ...終わってません」


「ほう?」

レオの口元が歪む。

「面白くなってきたじゃないか」


「北極星は、全ての星と共鳴できる」

綺羅の声が、今までにない力強さを帯びる。

「だから...あなたの力も、感じることができる!」


その瞬間、綺羄の体が金色の光を帯び始めた。


「なっ...!」

レオが驚きの声を上げる。

「俺の星霊波と同調してる...?」


「獅子座の力...借りさせてください!」


綺羅の叫びとともに、純白の光が金色に染まっていく。


「レオ・スターリンク!」


放たれた光弾は、まるで獅子の咆哮のような轟音を伴っていた。レオは咄嗟に両腕で防御態勢を取る。


轟音が収まり、煙が晴れる。レオの装束が、所々焦げていた。


「はっ...」

レオが笑う。

「面白い。お前、本当に面白いやつだ」


「えっ...?」


「星霊大会で待ってるぜ」

レオは背を向けながら告げる。

「そこで決着をつけよう。お前が本当に北極星の継承者に相応しいのかをな」


「星霊大会...」


去っていくレオを見送りながら、綺羅はその言葉を噛みしめた。


「すごかったよ、綺羅ちゃん!」

双葉が駆け寄ってくる。

「あんな強い光、初めて見た!」


「本当に成長したね」

柊も珍しく感心したように頷く。


翔は腕を組んで考え込んでいた。


「星霊大会か...」

その口元に、小さな笑みが浮かぶ。

「面白くなりそうだ」


満月が照らす校庭に、新たな風が吹き始めていた。


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