第2話「双子座の絆」
「はぁ...」
星川綺羅は、制服の胸ポケットに入ったカードに手を触れた。昨夜の出来事が現実だったことを確かめるように。
「おはよう、星川さん」
教室に入ろうとした時、背後から声がかかった。振り向くと、織部翔が立っていた。昨夜の神秘的な雰囲気は影を潜め、今は普通の中学生の姿。けれど、その瞳の奥には昨夜と同じ凛とした光が宿っていた。
「お、織部先輩...」
「放課後、時間あるかな?」
「え?あ、はい...」
「じゃあ、屋上で待ってる。星霊術の基礎を教えたいことがあるんだ」
翔はそれだけ告げると、颯爽と立ち去った。
「綺羅ちゃん、今の人誰?かっこよかったね!」
クラスメイトの興奮した声に、綺羅は苦笑いを浮かべた。
その時、担任の先生が教室に入ってきた。
「はい、今日は転校生を紹介します。天宮双葉さんと天宮柊くんです」
教室の扉が開き、そこに現れたのは...双子だった。
「天宮双葉です!よろしくお願いします!」
「天宮柊です...よろしく」
同じ顔立ちながら、まるで正反対の印象を受ける二人。双葉は明るい笑顔で挨拶したのに対し、柊は控えめに一礼するだけだった。
「二人とも綺羅ちゃんの隣が空いてるから、そこに座りましょうか」
担任の言葉に、綺羅は思わずドキリとした。双子は左右から綺羅を挟むように着席する。その瞬間、胸のポケットのカードが微かに反応した。
「あの...」
双葉が綺羅に向かって微笑む。
「放課後、屋上で会えるかな?」
「え?」
驚く綺羅に、今度は柊が静かな声で続けた。
「織部先輩から聞いています。星霊術士のことを」
「えぇ!?」
思わず声が大きくなってしまい、周りのクラスメイトが振り向く。綺羅は慌てて口を押さえた。
授業中、綺羅は落ち着かなかった。左右から漂う不思議な気配。そして、これから始まる「何か」への期待と不安。
放課後。
綺羅が屋上のドアを開けると、そこには既に翔と双子が待っていた。夕陽に照らされた三人の長い影が、屋上の床に伸びている。
「来たね、星川さん」
翔が微笑む。
「君に紹介したい仲間がいるんだ」
双葉が一歩前に出た。
「私たち、ジェミニの星霊術士。綺羅ちゃんと一緒に戦いたいって思って、転校してきたの」
「そ、そんな...私のために?」
柊が静かに頷く。
「北極星の加護を受けた星霊術士は特別な存在。だから——」
言葉が途切れた瞬間、異変が起きた。
夕陽が不自然な影に覆われ始める。空気が重く、どんよりとしてくる。
「来たか」
翔の表情が引き締まる。
「星川さん、実戦の準備はいい?」
「え、もう!?」
戸惑う綺羅。でも、昨夜と同じ不穏な気配が迫っているのを感じる。胸のカードが、まるで警告するように脈打っている。
「私たちが守るよ!」
双葉が叫ぶ。
「柊、いくわよ!」
双子が同時にカードを取り出した瞬間、屋上に巨大な影が現れ始めた。
巨大な影が屋上に立ち現れる。それは昨夜のものより遥かに大きく、そして強大な存在感を放っていた。
「星霊共鳴!」
双子の声が重なり合う。二人のカードから放たれた光は青と紫に輝き、互いに絡み合いながら螺旋を描いた。
「見てて、私たちの絆を!」
双葉が叫ぶ。
「ジェミニ・ハーモニー!」
光が収束すると、双子の姿は一変していた。双葉は鮮やかな青の装束に、柊は深い紫の装束に身を包んでいる。背中には星座を模った翼が浮かび上がっていた。
「すごい...」
思わず漏れた綺羅の感嘆の声。
「君も変身して」
翔が促す。
「今日は実戦で、チームワークを学んでもらう」
綺羅は震える手で北極星のカードを取り出した。昨夜より、少しだけ自信を持って声を上げる。
「星霊共鳴!」
純白の光が綺羅を包み込む。変身を終えた時には、既に侵蝕者との戦いは始まっていた。
「はぁっ!」
双葉が蹴りを放つ。
「せいっ!」
柊が後ろから魔法攻撃。
完璧なコンビネーション。だが、侵蝕者は微動だにしない。
「私たちだけじゃ、力が足りない...」
柊が歯を食いしばる。
その時、翔が綺羅に向かって叫んだ。
「北極星の力は、他の星々と共鳴できる特別な力だ。二人の力を感じて!」
「感じる...?」
綺羅は目を閉じた。すると不思議なことに、双子から放たれる星の力が見えるような気がした。まるで、夜空に輝く双子座のように。
「あなたたちの光...温かい」
綺羅の胸から、北極星のカードが浮かび上がる。それは今まで見たことのない眩い光を放っていた。
「共に...戦いましょう!」
その瞬間、三人の体が別の光に包まれる。
「これは...!」
翔の目が見開かれた。
「トリプル・スターリンク...ここで見られるとは」
光の中で、綺羅は感じた。双葉の明るさ、柊の冷静さ、そして自分の決意。それらが一つに溶け合っていくような感覚を。
「行きましょう!」
「うん!」
「了解」
三つの声が重なり合った瞬間、巨大な光の矢が形作られる。
「スターリンク・トライアングル!」
放たれた光の矢は、侵蝕者を貫いた。漆黒の体が、まるでガラスが砕けるように粉々になっていく。
光が収まると、夕陽が再び優しく屋上を照らしていた。
「すごかったよ、綺羅ちゃん!」
双葉が抱きついてくる。
「私たち、絶対いいコンビになれる!」
「本当に...特別な力を持ってるんだね」
柊も珍しく笑顔を見せた。
翔は満足そうに頷いている。
「これで基礎は教えられたかな。チームワークの大切さ」
「はい!」
綺羅は力強く答えた。
「私、もっと強くなって、みんなと一緒に戦えるように...」
その言葉が途切れた瞬間、遠くで轟音が響く。
「まだ...何かいるの?」
「ああ」
翔の表情が再び引き締まる。
「本当の戦いは、これからだ」
夕陽に染まった空に、新たな影が忍び寄っていた。
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