『星天のカードマスター』 〜シンフォニック・スターリンク〜

ソコニ

第1話「北極星の導き」



「ねぇ、見て!流れ星!」

友人の声に顔を上げた瞬間、夜空に光の帯が描かれた。星川綺羅は思わず息を呑んだ。真冬の澄んだ夜空を横切る光の軌跡は、まるで誰かが天から地上へ一筆書きで線を引いたかのようだった。


「綺羅ってば、願い事するんでしょ?」

「あ、うん...」


慌てて目を閉じる。でも、どんな願い事をすればいいのだろう。綺羅は迷った。中学2年生になって、何もかもが少しずつ変わり始めている気がする。でも、自分は昔のままのような...。


その時だった。


「きっと、君なら——」


突然耳元で囁くような声が聞こえた。綺羅が目を開けると、流れ星の光が真っ直ぐに自分に向かってくるのが見えた。


「え...?」


驚く間もなく、光は綺羅の胸に飛び込んできた。一瞬、世界が真っ白に包まれる。


「綺羅!大丈夫?」

友人の声が遠くで響く。目の前がクラクラする。でも、不思議と怖くはなかった。むしろ、温かい光に包まれているような心地よさを感じていた。


「星霊術士(スターリンカー)としての資質を感じる」


また、あの声。今度ははっきりと聞こえた。綺羅の目の前に、青白い光を放つ人影が浮かび上がる。長い黒髪をなびかせた少年は、まるで夜空の星々が具現化したかのような神秘的な雰囲気を纏っていた。


「僕は織部翔。君と同じ、星霊術士だ」


その瞬間、綺羅の胸から一枚のカードが浮かび上がった。カードの表面には、北極星が輝いていた。


「これが...私の?」


「そう、それは君だけの星霊カード。北極星の加護を受けた、特別なものだ」


翔は静かに説明を続けた。星霊術士とは、星々の意思を受け継ぐ者たち。そして今、その力が必要とされている、と。


「でも、私にそんな——」


言葉を遮るように、遠くで轟音が響いた。翔の表情が一瞬だけ曇る。


「説明している時間はないようだね。実戦で学んでもらうことにしよう」


「え?実戦って...」


翔は自身のカードを取り出した。オリオン座の輝きを帯びたそのカードは、夜空に向かって放り投げられる。


「星霊共鳴、開始」


呟きとともに、カードが眩い光を放った。その光は翔の体を包み込み、彼の姿を変えていく。深い青色の装飾が施された装束に身を包んだ翔は、まさに星空の戦士のように見えた。


「綺羅、君も試してみて」


「え、あ、うん...」


震える手で北極星のカードを掲げる。どうすればいいのか分からないまま、綺羅は目を閉じた。すると、カードが温かく脈打つのを感じた。


「星霊...共鳴」


言葉は自然と口をついて出た。優しい光が綺羅を包み込む。体が軽くなっていくような感覚。開いた目の前には、まるで別世界のような光景が広がっていた。


街を見下ろす高台に、謎の影が佇んでいる。それは人の形を象っているようで、しかし人ではないような不気味な存在だった。


「あれは"侵蝕者(コラプター)"。星々の意思に逆らう存在だ」

翔の声が響く。

「君の力が、本当に必要とされているんだ」


綺羅は自分の手を見つめた。星の光を纏ったような純白の手袋。なぜか、この力は自分のものだという確かな感覚があった。


「分かりました。私にできることを...させてください!」


決意を込めた声が、夜空に響き渡った。

星霊術士としての綺羅の物語は、こうして始まったのだった。


「でも、私にそんな——」


言葉を遮るように、遠くで轟音が響いた。翔の表情が一瞬だけ曇る。夜空に不自然な影が広がり、星々の輝きが掻き消されていく。


「説明している時間はないようだね」


翔の声が低く沈んだ。その瞳に、戦いの色が宿る。


「見て、星が...消えていく」


綺羅は震える声で呟いた。生まれてこの方、こんなにも暗い夜空を見たことがない。まるで宇宙そのものが、何かに蝕まれているかのようだった。


「これが侵蝕者の仕業」

翔は冷たい声で告げる。

「奴らは星々の光を喰らい、世界を闇で満たそうとしている」


その時、綺羅の胸の中で北極星のカードが鼓動を打った。温かく、しかし力強い脈動。まるで何かを訴えかけているかのようだった。


「私...何をすればいいの?」


問いかけるように北極星のカードを見つめる綺羅。すると、カードから柔らかな光が溢れ出した。その光は綺羅の心に直接語りかけてくるようだった。


「恐れることはない」

「迷うことはない」

「あなたは一人じゃない」


星々の声が、心の中で重なり合う。


翔は静かに微笑んで、自身のカードを取り出した。オリオン座の輝きを帯びたそのカードは、夜空に向かって放り投げられる。


「星霊共鳴、開始」


呟きとともに、カードが眩い光を放った。その光は翔の体を包み込み、彼の姿を変えていく。深い青色の装飾が施された装束に身を包んだ翔は、夜空の戦士そのものだった。


「綺羅、扉は開かれた。あとは君が踏み出すかどうかだ」


震える手で北極星のカードを掲げる綺羅。不思議と、恐怖は消えていた。代わりに心の中を満たしていたのは、確かな暖かさ。それは星々の光のように、優しく、そして力強いものだった。


「星霊...共鳴!」


叫びとともに、純白の光が綺羅を包み込む。閉じた目の奥で、無数の星が瞬いているのが見えた。体が軽くなっていく感覚。そして—


「これが、私の...」


開いた目の前には、まるで別世界のような光景が広がっていた。自分の体は淡い光を纏った純白の装束に包まれ、背中には星々を映したようなマントがはためいていた。


高台に佇む侵蝕者の姿が、闇の中ではっきりと浮かび上がる。それは人の形を象っているようで、しかし明らかに人ではない漆黒の存在だった。その体からは、星の光を吸い込むような禍々しい気配が漂っていた。


「あれが...敵?」


「そう、星々の意思に逆らう存在...侵蝕者だ」

翔の声が響く。

「君の力が、本当に必要とされているんだ」


綺羅は自分の手を見つめた。星の光を纏ったような純白の手袋。不思議と、この力は自分のものだという確かな感覚があった。それは、ずっと探していた何かを見つけたような、そんな安心感。


夜空を見上げると、北極星だけが、まだ力強く輝いていた。その光は、まるで綺羅に語りかけているかのようだった。


「迷わないで」

「あなたにはできる」

「共に戦おう」


その瞬間、綺羅の心に強い決意が灯った。


「分かりました」

綺羅は強く握り締めた手を胸に当てる。

「私にできること、私にしかできないこと...きっとそれがあるはず!」


決意を込めた声が夜空に響き渡ると、北極星が一際強く輝きを放った。その光は、暗闇に落ちていた街を優しく、そして力強く照らし始めた。


星霊術士としての綺羅の物語は、こうして始まったのだった。


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