#2 惨敗男宇宙に立つ!!
目の前に3匹の
そして、ついさっきまで昼間だった空は、プラネタリウムのような星がひしめき合う夜空にすり替わっていた。
本当に俺はどうかしちまったのか…?
「ブヒブヒ、フゴッブヒィ!」
豚人たちは相変わらず俺に何か訴えているがさっぱり分からない。しかし、俺はこんなところでめげたりしない。一番大切なのはコミュニケーションだと…俺の
「おい、ブヒブヒうるせえぞ!焼いて食っちまうぞハム共がよぉ!!」
「ブヒィィィ⤴︎⤴︎!!!」
しゃべる豚とのコミュニケーションはこれくらいがちょうど良いだろう。捕食者と被捕食者、流石に譲れないものがある。
「ブッ…ブヒィィ!ヒブヒブ!!!」
豚人の一人が顔を真っ赤にして、焼き豚になりかけたその時だった。
「7/. nya!!」
豚人の背後から大きな声が上がる……おそらく語尾は「にゃ」
声の方を振り向くと、そこには制服姿の猫のような顔立ちの可愛らしい女性が立っていた。
まぁ!ステキ!オマケに、猫ヒゲに猫耳と尻尾まであって……って、猫すぎじゃね?
猫顔のお姉さんは、怒ったような表情でこちらに近づいてくると、豚人たちに何か言い出した。まるで怒っている猫みたいで、全然怖くない。
「m4!/e0hu2@qfeg.taue nya?」
全く聞き取れなかったが、たぶん語尾は「にゃ」
「ブ…ブヒヒィ、ヒィヒィ……」
怒られた豚人たちは、肩を落とし、とぼとぼと去っていく。
「な、何がどうなったんだ?」
状況が分からず、ポカンとしている俺のことを、猫のお姉さんが覗き込んでくる。くっ、可愛い。
「5wb4k-dmlxyw@r nya?」
けど、何言ってるか分かんねえ……語尾以外。
「あぁーソーリー。ジャパニーズオンリーOK?」
「……!!nya!nya!」
お姉さんは、はっとした顔でポケットから何かリングのようなものを取り出し、俺に渡してくる。さらに俺の手首を指して、何か言っている。
「着けりゃいいのか?」
「nyanya!」
よく見ると、お姉さんの手首にも同じものが着いてる。もしかて“友好のしるし”って奴か?くぁいい女の子からのプレゼント……悪くないぜ。
俺はもらった腕輪をウキウキで手首にはめる。
「お姉さん、ありがとう。ぜひ僕と———」
「聞こえてますか?エテコー」
「…………ん?」
エテコー?今誰か俺のこと“エテ公”って言った?
「あれ?うまく機能してないんですか?聞こえてますかー!エテコー!!」
「エテ公じゃねえよ!」
「おぉ!聞こえてるじゃないですか!安心しました!」
「え?」
俺をエテ公と呼ばわりしていたのは、紛れもなく猫顔のお姉さんだった。
「翻訳機の方は大丈夫そうですね!」
「ほ、翻訳機?」
「私の言葉が分かるようになってませんか?それとも、浅はかすぎてオウム返ししちゃっただけですか?」
可愛らしさに対して、言葉が強すぎだろ……。
「い、言われてみれば確かに」
お姉さんの言う通り、さっきまで「nya」以外聞き取れなかったはずのお姉さんの言葉が、いつの間にか全て聞き取れるようになっていた。
「その腕輪が翻訳機になっているというわけなんですよ!」
「マジかよ…」
俺は試しに腕輪を外してみる。
「-o nya?」
再び着ける。
「そんなに疑うなんて終わってますね!」
……いや「nya」はどこいった?あと、言葉強いって。
「その翻訳機は社員証も兼ねてるんで、なくしちゃ駄目ですよ!」
「社員証?」
「はい!エテコーの
「え?なんで俺の名前を…」
「あっ!申し遅れました!私、駅員のマリィという者です!
「配属?案内?」
「……?先ほど、合格発表と共に迎えに行くと連絡があったと思いますが、鳥頭すぎてもう忘れちゃいましたか?」
鳥頭ではないので、少し記憶をさかのぼってみる。
「………あの求人イタズラじゃなかったのかよ!」
「声が大きいバカみたいですよ!ちょっとは落ち着いてください!」
「あっ すいません……」
「それじゃあ気を取り直して!星守の制服を貰いに受付へ向かいましょう!」
「えっ、あっ 星です!
「私のことは“マリィ先輩”と呼んでくださいね!」
「いや、あの 俺、星……」
マリィ先輩は、翻訳機が壊れてしまったのかと思うくらい俺を無視して、先に行ってしまう。
「何ぼさっとしてるんですか!行きますよ、星守!」
「は、はい!」
間違ってる以前に……なんで呼び捨て?
———————————————
マリィ先輩に案内されて、目の前にあった豪華な建物の中に入ったが、何とその中は!
ど真ん中にエスカレーターがポツンとあるのみだった。
「ハリボテかよ!!」
「駅員用の出入り口に何を期待してるんですか…?駅はエスカレーターを下った先ですよ…」
「駅?」
呆れ顔でエスカレーターに乗り込む先輩に、置いてかれまいと後を追う。
駅……確かあの求人にも駅員とか書いてた気がするな…。
「あのマリィ先輩、今日から俺、ここの駅員ってことですか?」
「えっ…そうですけど……もしかして何も聞いてないんですか!?」
「は、はい」
「はぁ…ミホちゃん、また変な求人出してるな……まぁ人手不足だし仕方ないか」
先輩は頭を抱えて天を仰いでいた。
「もしかして俺、なんかまずい感じですか?」
「いや!大丈夫ですよ!星守は馬鹿すぎて巻き込まれただけですから!」
笑顔で丁寧に、暴言と呼び捨て。
「そ、それなら良かったです」
「まあ過ぎたことは仕方ありませんから!今からあなたの仕事について軽く説明をするので、よく聞いて下さいね?」
「は、はい!」
宇宙の果てまで続く、きらめくレールの上を走る
「うるさいですよ~?」
「……すいません」
宇宙の果てまで続く、きらめくレールの上を走る
それが、ここ『
宇宙のあらゆる種族が行き交う、この夢のような駅で、俺は働き始めた。
新米駅員のエテコー星人、
今日から俺は、この広大な宇宙の物語の中心に立つ。
「以上です^^」
「俺のモノローグかよ!あと“エテコー星人”ってなに!?悪口が直球過ぎるだろ!!」
「あぁ~そういえば、エテコー達は自分達の事を“チキュウジン”とか言うらしいですね? しかし、『ギャラクシー全書』であなた達は、“エテコー星のエテコー星人”となっていますよ?」
「ギャラクシー全書!?何でもありじゃねぇか!」
「とにかく!今の説明で全部理解できましたね?これ以上導入が長いとタイトル詐欺で訴えられかねませんよ!!」
メタいッ!!!
「…はい、理解できました……」
「おっ、そうこうしているうちに見えてきました!」
長い長いエスカレーターを抜けた先。そこで俺を待ち構えていたのは、信じられないような光景だった。
「……なんだこれ…!!」
メカメカしい鉄道に近未来的な駅校舎、豚人や未知の生き物たち。
そして、奥には広大な宇宙と、蒼い星。
溢れかえりそうなほどのSFの数々。その圧巻の景色に俺は思わず立ち尽くしてしまう。
「す、すげぇ…」
「なに突っ立ってるんですか?早く受付に行きますよ!」
感動中の俺を置いて先輩はどんどん進んでいってしまう。
「ちょっ、待って下さいよ!」
———————————————
「………………」
「なにキョロキョロしてるんですか?怪しいんでやめて下さいよ…」
「いや、本当に宇宙人なのかなーって…」
先ほどから何人もとすれ違っているが、本当に人間がいない。というか人型がいない。
「はい?」
「いや、やっぱり急に宇宙人とか言われて——いてっ」
キョロりすぎて、誰かとぶつかってしまう。
「あっすいませ……って柱か」
「アァスイマピラ。小サクテ見エマピラデシタ」
「……え?」
頭上から超音波のような声が響き、見上げると、俺がぶつかった柱からその音が出ていた。
そして、柱はホバーしてどこかへ行ってしまう。
「……え?」
「ほら、押してるんですから急ぎますよ!」
「な、何ですか今の!」
「何って…ポール星人ですよ?デカくて助かりましたね」
あれも宇宙人なのかよ…。
「デカくて助かるって?」
「ポール星人は、短小ほど、気も短くてプライドが高く、見栄っ張りで、借りたお金は返さないし、そのくせ浮気する方が多いんですよ。あと気持ち良くないし…」
「た、短小のことそれ以上悪く言うな!!気持ち良くないって通説だろ!?だいたいせい———」
「気持ちよく(挨拶を返してくれ)ないんです…」
「挨拶ね!挨拶!!俺も良くないと思う!!!」
「恥ずかしい人ですね^^」
———————————————
「なんやかんやで着きました。ここが受付です!」
「雑すぎだろ…」
窓口のようなものがいくつか並んでおり、皆それぞれにお客さんの対応をしている。
「どうです?うちの受付は美人が多いって評判なんですよ?」
「どうって……まぁ?確かに?そんな気も?しなくはないけど?」
「星守は若干キモめですね^^」
先輩が鼻を鳴らして自慢するだけあって、確かに受付のお姉さんたちは、
しかし、一番奥の窓口だけは妖しい色のカーテンで、中の様子が見えなくなっている。
「先輩、あれは何すか?」
「おや?星守、お目が高いですね?あの窓口こそが、この駅一番の美人受付嬢!ミホちゃんの受付ですよ!!」
「そ、そんな方が!?」
「奇跡的にミホちゃんの受付が空いてるんで、あそこで制服を貰いましょう!」
「ぜひそうしましょう!」
———————————————
「ミホちゃ~ん!マリィです!星守の制服を受け取りに来ましたよ!!」
「あら~マリィちゃ~ん!それに新人くんも~。無事来れて良かったです~」
「ほんと、手のかかるエテコーですよ!あっ、そういえば!星守の電話面接をしたのもミホちゃんなんですよ!」
「え!そうなんですか!?あの時はありがとうございます!」
「いえいえ~。制服を取ってくるから少し待っててくださいね~」
あの個性的な絵をお描きになられる方か!声もかわいくてオマケに美人だったとは。顔合わせだけでもしたいが、それは流石に強引か?
「お待たせしました~これが制服です~」
「あっ、どうもありが——」『ズボッ!』
お礼を遮るように、俺の肩幅ほどある化け物みたいな緑の握り拳が、カーテンを貫通して出てきた。
「………ヱ?」
ボト…
拳を開くと、そこからしわくちゃの制服が現れる。
「ありがとうございます!後でご飯一緒に食べようね!」
「そうだね~。それじゃあ新人君も頑張って~」
ドスドスドスッ
「いやぁ、ミホちゃんの受付が空いててラッキーでしたね!」
「順当だろ!!」
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