ようこそ、未知の駅へ!

浅沼 渚

#1 NAITER×NAITTER



『件名:採用選考結果について 

 ほし 守弘もりひろ 様

 この度は、弊社採用選考にご応募いただき、

 誠にありがとうございました。多くの方にご

 応募いただき、大変厳正な選考となりました

 が、このたびはご希望に沿うことができず、

 誠に申し訳ございません。 (中略)

 星 守弘 様の今後のご活躍を心よりお祈り申

 し上げます。』



「…ったく、活躍を祈るんなら一人くらい多く雇ってくれてもいいだろ」



 俺は就活惨敗生、現在面接50連敗中。3月半ばにして、もらった内定……ゼロ。


 当然ながら、周りの奴らはほぼ全員が内定をもらっており、現在は最後の学生生活を満喫している。


 ブブッ


『ゲレンデサイコー!守弘も就活頑張れよ〜』

『就職浪人に5万』

『自信ありすぎだろwww』

『なら俺は倍プッシュ』

『wwwww』


 楽しそうな動画と共にチャット欄が賑やかになっている——が、しかし、今の俺の荒んだ心には、もはやこれを冗談と思って楽しむ余裕すらない。なんでわざわざ春にスキーなんて行ってんだよ。開花前の桜でも見とけよ。


 50連敗という記録を樹立し、今もなお現役の履歴書を小脇に、今日も今日とて大学のキャリアセンターへ赴く。



———————————————



「あっ…お、おはよう。星くん」


「おっ、木模きもぉ!やっぱり俺の仲間はお前だけだよぉ〜」


「え?ど、どうしたの?」


「また面接落とされたんだよ。サークルの奴らは下らねえスキーなんか行ってさぁ、なにがゲレンデだよな。ただの雪被った山じゃねえか」


 真っ先に俺に心配の声をかけてくれたこの男は、木模きも卓生たくお。少しオドオドしているが、根は良い奴で春にスキーなんか行かない。絶対にな。あだ名は“キモタク”だが、決してキモオタクではないので要注意だ。


「あっ…そ、そのことなんだけど……僕、カードショップに就職決まったんだ」


「は?……何がキモタクだよ!キモオタクじゃねえか!おいコラ!」


 俺は場所をわきまえず、ユダとなった木模の首を全力で締めた。


「ちょっ、ちょっと!落ち着いてよ!」


着けだと!?もう何度も面接で落ちてんだよ!これ以上落ちてたまるかよ!!」


「は!?さっきから何言ってるの!?意味分かんないよ!!」



 あまりに騒いだせいか、キャリアセンターに居た事務員たちに俺の(心の)正当防衛は、無慈悲にも止められてしまった。そして、俺のエントリーシート達も無慈悲な評価を受けた……。



———————————————



「さっきはすまん。就活が終わりすぎてて、気が触れてたよ」


「ははは……しょ、しょうがないよ。誰だってそういう時あるもんね」


「まぁ、お詫びと言っちゃなんだが、飯でも一緒に行こうぜ?ユダオ」


卓生たくおだよ……僕この後用事あるからご飯は遠慮しとくよ…ごめんね?」


「用事ぃ?そんなの飯の後でいいだろ」


「いや、人と待ち合わせてるから無理だよ…」


「待ち合わせ?」


「うん。サークルのみんなで行く旅行の予定をたてるんだ」


「は?お前もかよ。就活終わった途端に旅行旅行って、呆れちまうな………で、どこ行くんだよ」


「え……まぁ、まだ詳しくは決まってないんだけど、長野県の」


「長野!?あのゲレンデでお馴染みの!?」



 まずい!!こいつ、春にスキー信者か!?



「雪山…」


「雪山!?」



「…田くんの実家に行くんだ」



「誰だよそれ!!てか、なんで卒業旅行が同級生の実家なんだよ!!」


「ま、まあまあ…雪山田ゆきやまだくんの家は泊まらせてもらうだけだから」


「どんな旅行だよ……。ま、にしてもスキーじゃなくて良かったぜ」


 リーチは掛かっていたが何とか回避だ。ギリセーフ。


「え?スキーだよ?雪山田くんにみんなで教えてもらうんだ」


「結局スキーかよ!!!」




———————————————




 バシッバシバシッ ウォアァッ

 

『You lose…』


「チッ…ゲームでさえ俺の勝利を拒むか…辛い時代になったもんだな……」


 こんな鬱屈とした社会……俺が必ず終わ「なにあの人キモーい」「クスクス」


「………………」


「痛い人がいるよー」「こら!見ちゃいけません!早くスキー用品買いに行くよ!」



「いや!最後のはおかしいだろ!」



「すいません、お客様ぁ。店内ではもう少し静かにお願いいたしますぅ」


「あっ、すいません……」


 気分転換にゲーセンに来たものの、全くもって気分が転換されない。ここには“負け”だの“スキー”だの縁起の悪いものが多すぎる。


「……って、こんなことしてる場合じゃねぇよなぁ」



 クレーンゲームで5000円を失った後、ようやく無駄なことをしていると気づき、俺は重い足を引きずって帰路についた。




———————————————




 駅の改札をくぐる時、ふと、掲示板の隅に貼られてある求人に目がいく。


『仕事探し中!そこの人!夢の駅員になってみませんか?それで採用も!月給500万えん〜電話ばんはこれ090-xxxx-xxxx』


 ……怪しすぎる。なんだこの翻訳にかけすぎておかしくなったみたいな日本語。それに、この熊かパンダかよく分からない不気味な絵…子供のイタズラか?



 ……と、普段の俺ならスルーしただろう。



 しかし、就活の悪魔に取り憑かれて、心が荒み切っている俺には、もはや正常な判断能力はない。



 俺は無意識に電話をかけていた。



 プルルルル ガチャ



『はい、もしもし——の受付です〜』


「………あっ!はい!」


 やべっ、声が可愛すぎてぼーっとしてた。


『もしかして求人ポスターからのお電話ですか〜?』


「あっはい!そうです!」


『うわぁ〜、本当ですか〜!あのポスター私が作ったんですよ〜!』


「めちゃくちゃ素敵でした!あの絵が決め手です!」


『えぇ〜本当ですか~!?嬉しいです〜!では、少し質問させて頂いてもよろしいですか〜?』


「はい!大丈夫です!!」


『良かったです〜。それではまずお名前の方お願いします~』


ほし守弘もりひろです!」


星守ほしもり ひろさんですね〜。いつ頃から働けますか~?」


「え…!い、今すぐにでも働けます!!」


『おぉ~やる気ばっちりですね~。それでは最後にもう一つだけ~』


「は、はい!」


 なんか、いけそうじゃね!?このまま面s——


『汝、是れより“ギャラクシー全書”の定めるところに従い、大宇宙の至高なる君主との盟約を結び、その御旨に背くこと勿れ。万世不易の誓いを立て、ここに永遠の誓詞を捧げよ』



「………は、はい?ギャ、ギャラクシー…何て?」



 まるで電話の相手が変わったのかと思うくらい、唐突に厳かな声で、何か呪文のようなものを唱えられた……。どう考えても“ギャラクシー”だけ浮いていたが。


『よろしいですか~?』


「え…あっはい!」


『はい、合格です~。係りの者がお迎えに上がりますので少々お待ちください~。それではのちほど~』


 ブツッ


「えっ」


 流れるように合格を告げられ、電話を切られてしまった。


「………合格?…今ので?」


 ずっと追い求めていたはずの『合格』という響き……しかし、なぜか釈然としない。


 いや、“なぜか”なんてことは無い。理由は明白『怪しい』からだ。シンプルに怪しい。勢いで電話をかけてしまったが、怪しすぎる。さっきの『ギャラクシーなんとか』みたいなのも全然意味が分からん。


 「……てか、明らかにイタズラだよなぁ」


 こんなものに縋ってしまうなんて、いよいよ俺は限界なのかもしれない。



「はぁ……俺もゲレンデ行きたい…」



 柄にもなく、肩を落としてうな垂れてしまう。



 ——が、しかし、そんな俺の目の前に現れたのは、ゲレンデでもなく、雪山田の実家でもなかった。




 カジノや高級リゾートを思わせるような豪華絢爛な巨大建造物と、辺り一面に広がる雄大な星空が俺の目の前に広がっている。




「……は?」


 なにだこれ?俺は夢で———


「ブヒブヒ!ブヒヒ!ブヒィィ!」「フゴッフゴッ」「ブヒィィィ⤴︎⤴︎!!!」



「……は?」



 俺は……限界を超えてしまったのか?



 就活惨敗?まだ大丈夫。怪しい求人?まだ大丈夫。春にスキー?〇ね。



 豪華な建物やきれいな星空、と俺の間に、豚が3匹……並んで


「……ぶたじん?」


「ブヒィ!ブブ!」


 体型はメタボ、ランニングに短パン、キャップ帽やサングラスをかけた奴もいる。そして、体中至る所に貴金属のアクセサリーをつけていた。



「豚に真珠まみれじゃねぇか!」


「ブヒィィィ⤴︎⤴︎⤴︎⤴︎!!!」



 これが、記念すべき初めての、俺と宇宙人のコミュニケーション記録。



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