第50話

 二年間、既読マークが付くばかりだったアカウントから通知が来たのは、九月の半ばだった。


「え……?」


 仕事終わり、制服から私服に着替えている更衣室で。


「長崎さん、どうかした?」


 先輩がブラウスを脱ぎながら尋ねてくる。心臓がばくばくした。


「いえ……、なんでもありません」

「そう? あ、そういえば近くにおしゃれなカフェがオープンしたみたいなんだけどさ。帰りに寄っていかない?」


 以前の職場とは違い、同年代の多い今の職場ではこうやって声をかけられる事が増えた。女の多い部署で、時々トラブルがあるけれど、でも決して居心地が悪いわけではない。

 何より自分で選んだ職場なのだ。納得しながら業務に取り組めた。


「ごめんなさい……、ちょっと用事ができて」

「あ、そうなんだ。じゃあまた今度ね」

「ありがとうございます。お先に失礼します」

「お疲れ様。また明日ねー」


 気さくな先輩に挨拶をして職場である病院を出る。再度スマホでメッセージアプリを起動させると、見間違えではなかった。

 送られてきた一枚の画像。そこには地図と、そして。


〈諸星悠太 路上ライブのお知らせ〉


 ドクンと心臓が大きな音を立てた。

 スマホを持ったまま呆然としていると、新たな画像が送られてきた。

 ビルとビルの間にある、空。

 ユウタだ。わたしと同じ空の下にいる、ユウタからの二年ぶりのメッセージだった。

 久しぶりだね。元気にしてる? 今、何をしているの?

 先日元同僚に出会った時に投げかけれたものと同じ言葉が、脳裏を駆け巡っていく。二年間、考えなかった日はない。

 さわさわと街路樹が風で揺れた。九月の夕方の空は、グラデーションがかっていてとても綺麗だ。世界が鮮やかになる。わたしはこの感覚を知っている。

 また歌を歌っているの?

 答えは、この画像が全てだ。地図の示す場所まで、電車に乗ってニ十分。わたしは駅に向かって走り出した。

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