第29話
タブレットに羅列されている文字。
〈相変わらずラブラブですね〉
〈ユウ君、イケメンみが出てる〉
〈ヒナちゃん、ユウタの愛にメロメロじゃん〉
最新動画にもコメントがたくさん付けられていた。
〈なんかマンネリ化してる気がする〉
〈そろそろ飽きてきたかな。もう見ないかも〉
〈二人の世界を見せつけられても、刺激が足りない〉
好意的なものに、少しずつ否定的なものの割合が増えてきた気がする。
十月に行ったこの動画の撮影は、確かにあまりよくなかった。ユウタとの同居生活に慣れてきた頃で、アイドルだったユウタの破片を拾うのに必死で、集中していないと叱られてしまった。
今思えば、あの時からわたしはユウタへの感情を持て余していた。好きにならないわけがないのに。
「この荷物、どうした?」
コインランドリーから持ち帰ってきた洗濯物を二人で片付けた後、テーブルに置きっぱなしの小さな段ボールを指さしてユウタが訊ねた。あー……、躊躇したまま片付けるのを忘れていた。
宛名は「長崎妃奈子」、品物名は「化粧品」。商品を購入する時に入力したものだった。
段ボールを持ち上げると、軽い感触があった。こういったものを手にする事自体が初めてで、今になって羞恥心に襲われる。
「あのさ、ユウタ……」
ユウタとの繋がりは、動画の撮影だけだ。わたし達はただのビジネスカップルで、そこに感情は存在しないはずだ。
「マンネリ化してるって……」
「ん?」
「コメントで書かれてて、それで……」
ぴりりとガムテープを剥がしていく。思いのほか粘着力が強かったのか、表面に剥がした跡の残った段ボール箱をゆっくり開けると、そこにはアダルトグッズが丁寧に梱包されていた。
わたしの隣で、ユウタが息を詰めたのが分かった。ずいぶんと理解が早い。
「これを使うのか?」
「ユウタは、こういうの嫌い?」
初めて撮影をした時よりも緊張しているかもしれない。震える声で訊ねると、ユウタがふっと笑った。
「好きでも嫌いでもねーよ」
ああそうか、とわたしは鈍い頭の裏側でようやく理解した。ユウタにとっての性行為は、温度の通わないものだった。ある時は居場所を維持する為、ある時はファンへのアピールの為、ある時は金銭を得る為。
愛をうたっていながら、その中身は空っぽだった。ユウタも、これまでのわたしも。
だけど、……だから。
わたしがユウタを守りたいと思った。それが一方的なものだったとしても。
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