第24話
会社に着くなり、村田課長の怒号を浴びた。わたしの作った資料の不備により、プレゼンが通らなかったのだという。
「あんなの、ただの八つ当たりですよ」
ふらつく足取りで席に戻ると、隣の席で鈴木君が心底嫌そうな表情を浮かべていた。
「気にする事ないっすよ、長崎さん」
「うん……」
鈴木君の気遣いはありがたい。だけど、私の頭の中は別の事で膨れそうになっている。
――俺は、マネージャーに飼われていたんだ
ユウタがそう切り出したのは、昨日の朝だった。
――飼われていた?
――寝ていたんだ。……セックス、していた
積み重ねた時間を確認するだけの、淡々とした物言いだった。
「長崎さん、大丈夫ですか?」
頭がぼんやりして、鈴木君の声が遠い。
「もしかして、体調悪いですか?」
「う、ううん……!」
わたしは慌てて否定した。しっかりしなきゃ。ユウタの過去を知ったくらいで、何をやっているんだろ。
「仕事が増えたから嫌になっただけ」
その日はいつも以上に村田課長から叱られた。ひとつの仕事をわたしが奪ったのも同然で、仕方ない。いつもであれば怒号に対してもビクビクと震えるしかできないのに、今日はそれすらも薄い膜の向こう側で起こっている出来事のようで、頭の中がふわふわした。
ユウタと一緒に暮らし始めてもうすぐ二か月が経とうとしていた。ユウタはわたしの生活を快適に整えてくれる。でも、ただそれだけだ。昼間の出来事を共有したり、共に過去を振り返ったり、未来を展望したりする事はありえない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます