第13話
それから、わたしの世界は色鮮やかになり、ユウタを中心にまわり始めた。
ファンクラブに入会して、週に一度お行われるライブには必ず足を運んだ。その他のイベントも、平日の昼間に行われても大学の講義を休んで参加した。
普段は母に選んでもらったシンプルな服を着ていたけれど、ユウタに会いに行く時だけは自分で選んだ服を身に付けた。財布を握りしめて、初めて洋服を買いに行くときはドキドキした。お姫様みたいな店員に勧められるがまま、わたしは不思議の国のアリスに出てくるようなワンピースを選び、そのお店の常連になった。
クローゼットからカラフルなワンピースを選んで、ライブに、イベントに、足を運ぶ日々。
相変わらず大学生活は虚しく、友人関係はひどく浅いものだったが、わたしにはユウタがいた。
「いつもありがとー」
ユウタに関わる時間の中で、最も好きだったのがライブ後の物販会の時間だった。もちろん、ステージの上で激しいダンスをしたり、鮮やかな歌声を披露するユウタも好きだったが、物販会では一つの机を挟んだ距離でユウタを拝められた。
販売されている自主制作のCDは二種類しかないのに、行くたびにCDを買った。ライブに足を運ぶファンさえ多くはないのに、さらに物販で安っぽいジャケットのCDや百円ショップで売っていそうなプラスチック製のグッズに毎回数千円も出して貢ぐファンなどほとんどいなかったのだろう。わたしはユウタに認知されていた。
それでもファンという立場をわきまえ、「頑張ってください、応援しています」という挨拶だけ残してライブハウスを出る時は、レースを重ねたスカートの足元がそわそわとした。
自宅では動画アプリで配信されているジャンフラのダンスパフォーマンスを視聴し続けた。彼らのSNSを逐一チェックし、万が一消されてしまった時のために、スクショしてスマホ内のフォルダに保存した。
記憶に積み重なったユウタの言葉が、歌声が、表情が、パフォーマンスが、わたしを動かしていく。
『もしもし、妃奈子?』
母からの定期的な連絡によって、現実に引き戻された。
『ちゃんとやってるの? 大学に迷惑をかけていない? お父さんの勧めで一人暮らしなんてさせたけど、お母さんは心配だわ』
大丈夫だよ、お母さん。
優等生の回答がするすると口を滑っていく。もう捕らわれたりしない。支配されたりしない。
スマホを持つわたしのすぐ横を、カップルが歩いていった。他にも、友人同士、男女入り混じったグループ。ライブ帰りの夜の街は、わたしをより一人にさせた。厚底のパンプスで、アスファルトの上を歩く。
もっともっと補給しなければ。溢れるくらいに、ユウタを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます