第8話
動画はそれなりの再生回数を維持できているため、収益もそれなりだ。最初に約束した通りの分配で、それだけでも食べていける。それでも、わたしは会社を辞められない。
「長崎ぃ! この資料はどうなってるんだ!」
今日も朝から村田課長の怒号が飛んだ。依頼を受けて作成し資料に不備があったのだ。
差し戻された資料を慌てて修正していると、隣からこっそりと鈴木君が「理不尽じゃないっすか?」とこっそりとつぶやいた。
「追記事項が必要って言うけど、最初にそんな依頼はなかったっすよね?」
「うん……、でも、わたしの聞き漏れかもしれないし」
「村田課長って、特に長崎さんにきつく当たっていますよね。コンプライアンス室に相談した方がいいんじゃ……」
「ありがとう。でも、大丈夫」
鈴木君は今年の春に入社したばかりの後輩だ。一年違いという事もあって、こうして小さな不満や愚痴を共有できる仲になっていた。
村田課長が特にわたしにきつく当たる理由。鈴木君も知らない訳がない。わたしが親によるコネ入社である事は、社員の間でも知られている話だった。父がグループ会社の役員なのだ。
無機質なデスクが整然と並んだ室内に、季節は感じられない。あらゆるところからキーボードを叩く音が響く。真っ白な蛍光灯が、ブルーライトを浴び続けている目に沁みる。
村田課長から指示された資料の追記事項を作成しながら、机に置きっぱなしのスマホをちらりと盗み見た。スマホは当然のように沈黙を保っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます