第8話

 動画はそれなりの再生回数を維持できているため、収益もそれなりだ。最初に約束した通りの分配で、それだけでも食べていける。それでも、わたしは会社を辞められない。


「長崎ぃ! この資料はどうなってるんだ!」


 今日も朝から村田課長の怒号が飛んだ。依頼を受けて作成し資料に不備があったのだ。

 差し戻された資料を慌てて修正していると、隣からこっそりと鈴木君が「理不尽じゃないっすか?」とこっそりとつぶやいた。


「追記事項が必要って言うけど、最初にそんな依頼はなかったっすよね?」

「うん……、でも、わたしの聞き漏れかもしれないし」

「村田課長って、特に長崎さんにきつく当たっていますよね。コンプライアンス室に相談した方がいいんじゃ……」

「ありがとう。でも、大丈夫」


 鈴木君は今年の春に入社したばかりの後輩だ。一年違いという事もあって、こうして小さな不満や愚痴を共有できる仲になっていた。

 村田課長が特にわたしにきつく当たる理由。鈴木君も知らない訳がない。わたしが親によるコネ入社である事は、社員の間でも知られている話だった。父がグループ会社の役員なのだ。

 無機質なデスクが整然と並んだ室内に、季節は感じられない。あらゆるところからキーボードを叩く音が響く。真っ白な蛍光灯が、ブルーライトを浴び続けている目に沁みる。

 村田課長から指示された資料の追記事項を作成しながら、机に置きっぱなしのスマホをちらりと盗み見た。スマホは当然のように沈黙を保っている。

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