第4話

 スマホにメッセージが届いたのは、残業を終えた午後八時だった。

 会社のビルを出て駅まで歩く道のりで、電話をかけるとすぐに繋がった。


「もしもし?」

『反応遅えよ』

「ごめん、今メッセージ見た。どういう事?」

『そのままの意味だけど』


 スピーカーの向こうでのユウタが深くため息をつくのを聴きながら、わたしは指先でスマホを操作する。


〈変なDMが来た〉


 メッセージアプリの吹き出しにある言葉はそれだけだ。そもそも、事務連絡以外でユウタと連絡を取り合うことはほとんどない。


「変なDMって……、アンチとか、そういうの?」

『そのくらいじゃおまえにメールしねえよ』


 ユウタの言う通りだった。今更アンチだとか誹謗中傷などで騒ぎ立てるほどユウタはやわではないはずだ。

 DMの内容が気になるのに、〈ユウヒなチャンネル〉のアカウント管理はユウタが行っているため、わたしには確認できない。

 いつも聴いているサウンドが、頭の中を駆け巡る。すっかり冷たくなった風が、嫌な予感を運んできた。


「ユウタ」

『なに』

「わたし、今からユウタの家に行く」

『はあ? いま何時だと思ってんだよ』


 不機嫌そうな低い声に、私はぐっと声を詰まらせた。

 ユウタの拒絶を示す言葉は、今に始まったことではない。だけど、無反応な態度よりもずっと救いを求めるものに思えたのだ。

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