第2話 職場でのプレッシャー(山本孝司の期待、部下の吉田健太との会話)
達也は会社に到着し、オフィスに足を踏み入れると、いつものように忙しそうな雰囲気が広がっていた。社員たちは電話を取り、パソコンの画面に向かって集中している。達也もその一員であり、目の前の業務に集中しなければならない。しかし、心の中では、今日もまたあの重いプレッシャーが降りかかっていることを感じ取っていた。
「達也、お疲れ様。」
後ろから声をかけてきたのは、部長の山本孝司だった。彼は40代後半で、頼りにされる存在だが、その分厳しさもある。達也の直属の上司であり、何度も繰り返しプレッシャーをかけてきた人物でもある。彼の期待は重く、達也にとってはそれが自分を追い詰める原因の一つだった。
「お疲れ様です、部長。」達也は立ち上がり、部長に目を向けた。山本は満足げに頷き、続けて言った。「今月のプロジェクトの進捗、どうだ?」
達也は一瞬、心の中で考えた。プロジェクトは順調に進んでいるが、細かい部分で問題が発生していたことを思い出す。だが、それを口にすることが怖かった。山本の期待を裏切りたくないという気持ちが強く、どうしても全てが順調に見えるように言ってしまう自分がいる。
「順調です。先週の会議でのフィードバックをもとに、いくつかの調整をしました。今週中には最終報告ができると思います。」達也は自信を持って答えたが、その声にはわずかな震えが含まれていた。
山本は達也を見つめ、しばらく黙っていた。彼の目は鋭く、達也の言葉を真剣に聞いている様子だ。やがて、山本はうなずきながら口を開いた。
「よし、それなら問題ないな。ただ、君がしっかりやらないと、他のメンバーも安心できない。お前の実力を信じているからな。」山本の言葉は、どこか達也にとって厳しく感じる。期待されることは嬉しいが、それと同時にその重圧が身に染みている。
「ありがとうございます。頑張ります。」達也はそう言うしかなかった。山本は少しだけ微笑んで、「それでは、引き続きよろしく頼む。」と言い残して去って行った。
達也は肩の力を抜き、深く息をついた。自分がどれだけ頑張っても、山本の期待には応えきれないのではないかという恐れが心の奥に芽生えている。だが、それを口にすることはできない。仕事はただ一つ、完璧にこなさなければならないのだ。
その後、達也は自分のデスクに戻り、パソコンの前に座った。目の前に広がる資料やメールに目を通しながら、ふと隣のデスクに目を向けると、部下の吉田健太が忙しそうに資料を整理しているのが見えた。吉田は入社してから数年目の若手社員で、達也の指導を受けながら成長してきた。しかし、最近の吉田はどこか疲れているように見え、達也はそれが気になっていた。
「吉田、お疲れ様。」達也は声をかけた。吉田は顔を上げ、少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔を見せて答えた。
「お疲れ様です、達也課長。」吉田は慌てて資料を片付け、達也に向き直った。その顔には、まだ若さが残っているが、最近は仕事のプレッシャーに押しつぶされそうな表情をしていることが多かった。
「どうだ、最近調子は?」達也は軽く尋ねた。吉田はしばらく黙ってから、少し困ったような表情を浮かべた。
「正直、少しきついです。納期が迫っていて、他の業務も重なっていて…。でも、課長がしっかりしているから、俺も頑張らなきゃって思うんですけど。」吉田は言葉を詰まらせながらも、達也を見つめた。
達也は吉田の言葉に胸が痛んだ。自分が彼に与えるプレッシャーも少なからずあるのだろう。しかし、今の自分にはそのことを考える余裕もなく、ただ目の前の仕事をこなすことに集中してしまう。
「無理はするなよ。俺も昔はそうだったけど、無理しても結局は体調を崩すだけだからな。」達也は吉田に軽くアドバイスを送るが、心の中ではそれを実践できていない自分を痛感していた。自分も吉田と同じように、プレッシャーに押し潰されそうになりながら、なんとか踏ん張っているだけなのだ。
吉田は少し安心したような表情を浮かべ、うなずいた。「ありがとうございます。課長がいてくれるから、なんとかやれてます。」
達也はその言葉を聞いて、どこか胸が苦しくなった。自分が吉田を支える立場にあると感じているが、実際には自分が支えられているような気がしてならない。吉田のような若手社員には、達也が持っているプレッシャーや不安を簡単には理解できないだろう。それでも、彼らの期待に応えるために、達也は一歩一歩前進しなければならない。
その後も達也は忙しい一日を過ごした。会議、メール対応、部下たちの進捗確認…一つひとつの仕事を片付けるたびに、達也は少しだけ疲れを感じる。だが、それを口にすることは許されない。自分がしっかりしていなければ、周りは不安に思い、チームの士気が下がってしまう。達也はそのプレッシャーを背負いながら、仕事を終える時間を迎えた。
帰宅の時間が近づくと、達也はふと思った。家ではどんな顔をして帰るべきか。妻の彩香、子どもたちに、疲れた顔を見せたくないという思いが強くなった。だが、心の中では「もう少しだけ頑張らなければならない」と自分に言い聞かせていた。
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