『基礎からの文学少女/ハナビシトモエ』

審査員A 6/4/1/3 14/30

審査員B 6/4/3/2 15/30

審査員C 5/3/4/2 14/30

43/90


【審査員A】14点

『文学少女を文学少女らしく、本や読書、創作を愛する姿を書けているか?』

⑥参加作品の中でも一番、日常的で現実に居そうな文学少女を描いていた。文学少女が何をもって本や創作を愛しているかを語る上で、この作品は『本と共に過ごした時間の長さ』を主軸に据えていると感じた。文学部へ行かない選択をした後も書店で働くことを選んだり、常に本と共にある生活を送っていたことは評価できる。

また、たくさんの本や作家名を出すと言うのも表面的ではあるが加点要素のひとつだった。物語に作品名や作家名を絡ませようという工夫も感じられ、そこは好印象だった。


『作家、もしくはそれ以外の道を選ぶ理由、バックボーンを掘り下げられているか?』

④『もっともっと高みを目指す為に文学部へ行きたいと思っていた。』とあるが、作家になることを志すために文学部へ行くのか、読み手としての知識を広めるために行きたかったのかがわからなかった。また、母親もとい家庭の事情で文学部へ行くことを断念したことはわかったが、これは『作家、もしくはそれ以外の道を選ぶ理由』というよりも『こうするしかなかった』という要因が描かれていると感じた。例えばこれが『母の容態を言い訳にして、本当は創作や文学から逃げ出したかったのかもしれない』のような掘り下げがあればマイナスな感情による『選ばなかった理由』になるが、今作ではあくまで『こういう状況に追いやられた』と説明されただけのように受け取れてしまった。


『文学少女に対して『癖』を込められているかどうか』

①本と一緒に長い時間を過ごしてきた、また本に関する知識量のある比較的、内向的な文学少女という印象は受けたが『癖』という部分があったかというと少々物足りなかった。しかし、実在性という意味で、こういう人物が現実にもいそうというリアリティは高く感じたので、そういう部分が今回の審査基準に加点要素としてなかったことが残念だ。


『文章、ストーリーが魅力的かどうかなど、その他の加点要素』

③『変色した太宰治』や『仲良しの証として渡された金色のピーターラビットの栞』などアイテムの使い方、登場のさせ方が上手かった。作中に様々な作品名や作家名が登場したがこれらも『主人公が知っている知識』ではなく上記のような『小道具』として作中に登場し、物語に絡ませていたら日常的なリアリティの高い作品としてより評価できたと思う。こういう小道具の出し方ができることは作者に観察力があり、日常や読者の感性や共感性に寄り添った描写が描けるひとつの証だと思うのでぜひ伸ばしていってほしい。

また、おそらく読書から離れていたと受け取れる主人公が、再び読書に戻っていくというのは綺麗な物語の終わり方で良かった。ただ、戯曲サロメにちなんで手に取った本を『ヨナカーンの首』と書いていたが、既に命を落としている『ヨナカーンの首』と『本』を重ねるのは戯曲サロメの終わり方と思えばなんとも不気味で不穏な読み味だった。こういう不穏さも面白いが、もしも意図的に『不穏』に描くのならばもう少し戯曲サロメとヨナカーンの首について掘り下げたり、作中にわかりやすい導線を作るとより読者に訴えかけるものがあったかもしれない。

作品の序盤と中盤に出てきた、男の子の存在意義が希薄だったので、彼を登場させるならば、そういった描写に文字数を割いた方が作品の完成度が上がったと感じた。


【審査員B】15点

『文学少女を文学少女らしく、本や読書、創作を愛する姿を書けているか?』

⑥乱読家が幻想小説やミステリーに傾倒していくさまに、主人公の好みが色濃く出ていた。江戸川乱歩からエドガー・アラン・ポーに入るのも、あるあるネタで微笑ましい


『作家、もしくはそれ以外の道を選ぶ理由、バックボーンを掘り下げられているか?』

④家族の事情で断念した旨は伝わる。忙しい以上の理由がプラスアルファであれば、より掘り下げになっていたかも知れない


『文学少女に対して『癖』を込められているかどうか』

③母親の病状が安定しているとはいえ金策が必要そうな場面で小さな店の書店員が自分にとってベストの仕事と定義する感性は極めて独特で、どうやら本をめくる以上に本に囲まれていることをよしとするキャラクターであったことが窺える


『文章、ストーリーが魅力的かどうかなど、その他の加点要素』

②最後の、オスカー・ワイルド版サロメ、つまるところ幻想文学へと主人公の手に取る物語が一周してきたことは感慨深い。サロメに絡めた文脈があったのなら、さらに加点されたことだろう



【審査員C】14点

『文学少女を文学少女らしく、本や読書、創作を愛する姿を書けているか?』

⑤本や読書を愛する描写として、年数や時間を用いるのは強弱はさておき良かったと思う。本を愛しているのはわかったが、彼女は本当に読書や創作を愛していたのだろうか?その部分に関して疑問を拭うことができなかったのでこの点数とした。


『作家、もしくはそれ以外の道を選ぶ理由、バックボーンを掘り下げられているか?』

③作家以外の道を選ぶのと、選ばざるを得ないのとでは天と地の差があると思う。あと、この終わり方だと最終的に作家になりそうな印象があった。彼女は作家にならなかったのではなく、一時的に他の道を選ばざるを得なかっただけだった。


『文学少女に対して『癖』を込められているかどうか』

④こういう、ある種現実的な文学少女も良いのかもしれない。


『文章、ストーリーが魅力的かどうかなど、その他の加点要素』

②この少女が色んな作品を好きなのはわかったが、途中の既存作品の出し方はともかく、最後のような使い方(戯曲サロメとヨナカーンの首)をするならば、その作品がどういったものかがわからないと知見が読者に委ねられてしまい、この少女の本質や癖が、その作品を知っていないと霞がかかったような状態になってしまいもったいないと思った。


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