『花梨へ/あじさい』

審査員A 5/3/2/3 13/30

審査員B 5/5/3/2 15/30

審査員C 2/2/2/2 08/30

36/90


【審査員A】13点

『文学少女を文学少女らしく、本や読書、創作を愛する姿を書けているか?』

⑤文学少女を、創作をする花梨とあくまでも読み手であり続けた語り部の二人にし、異なるあり方を描こうとした部分は好感が持てた。

しかし、本の知識があること自体は文学少女を文学少女らしくする要因の一つではあるが、本の知識を披露することが必ずしも本への愛には繋がらないと思う。作中、花梨や語り部の会話の中には本の知識に関するやり取りはあったが、読者視点で二人が『なぜ、その知識を語り合ったのか心情がわかる文章』や『本を愛している』もしくは『創作が好き』と感じられる文章は少なかった。


だが、全くなかった訳ではない。今作の中で、

『花梨は中学時代に、私が本から顔を上げるのを待って、話しかけてきてくれた。読書家ならではの気遣きづかいだと思う。』

という文章があったが、こういう行動や感じ方は本に親しんだ人特有の感じがしてとても良かった。上記のような登場人物の深掘りとなる描写が多ければより人間らしく、血肉の通った文学少女を描けたように感じる。


『作家、もしくはそれ以外の道を選ぶ理由、バックボーンを掘り下げられているか?』

③作中に花梨と語り部がどんな本を読んでいるかわかる文章があったが、個人的に花梨が読む本よりも語り部が読んでいる本の方が『創作をする人が読みそうな本だな』という印象を抱いた。

花梨の読んできた本は「本が好きな人が読む本」という印象があり、二人の読書遍歴を比べた時、花梨が創作する道を選び、語り部は創作を断念するというイメージに違和感が生れ、登場人物の掘り下げやバックボーンが浅いと感じてしまった。


また、花梨がNPOに就職したとあったが、何故その道を選んだのかわかる描写が『花梨は誰かの役に立つことが大好き。』という一文だけのようで加点が難しかった。文学少女と言える登場人物が2人登場する今作だが、そのどちらも『何故、作家にならなかったのか』と『何故それ以外の道を選んだのか』を描いている文章が足りていないと感じた。


『文学少女に対して『癖』を込められているかどうか』

②2人の文学少女が登場するが『癖』がつめ込まれているか、というと受け取り方の難しい印象を抱いた。例えば、作中で語り部が花梨の遺灰を海に撒くシーンがあるが、私としては、二人が死後、自分の遺骨をどうするか?と語り合った結果、何故散骨という比較的ポピュラーな方法を取ったのかがわからなかった。


花梨と語り部はたくさんの本を読んで知識があり、しかも互いに読んできた本の趣向が違う者同士だった筈だ。そんな二人が死生観について語り合った結果として『お骨を太平洋に撒く』というのは少々お約束過ぎるのではないか?今作における『癖』を詰め込むとしたらタイプの違う文学少女たちの死生観と、それをどのように実行するのかという点だったように思うので、ここはキャラクターの心情をより深掘りし、意外性や作者のこだわりを見せてほしかった。

だが、それはそれとして、遺灰が顔や服にかかるという細かな描写は好みだった。


『文章、ストーリーが魅力的かどうかなど、その他の加点要素』

③花梨と語り部という二人の文学少女が出てきた点と、語り部の奇行ともいえる行動力はおもしろい作品だった。しかし、全体的に読者が抱く疑問に答えられていない、納得感の少ない「こういう人間っているよね」という投げっぱなしな設定や書き方が多く見受けられたように思う。

例えば、語り部が花梨の死後、小説を読む機会を永遠に失ったという場面があるが、永遠に失われてはいない。花梨の親や保護者がいたのならば、その人たちに頼んで花梨の部屋やパソコンを見せてもらい、あるいは探して読もうと思えば読むことができた筈だ。


遺骨を海に撒くために(そもそもどうやって遺骨を持ち出せたのか謎だが)酒を飲みながら120km/hで車を飛ばす行動力の持ち主が花梨の遺作を読むために行動を起こせなかったのは、作者都合というか、作者が語り部の取りそうな行動を思い描けていなかったという印象を抱いてしまった。


これは私の好みでしかないが、最後に方丈記の冒頭を口にするくらいなら、花梨の遺作を読み、散骨を終えた後で「全然、大したことないじゃん」とか「おもしろかったよ、あんたの小説」と感想を口にする方が物語として、また語り部の行動として納得感があるように思えた。

ただ、彼女たちは海に散骨をするし、方丈記の冒頭も口にする!私はこれが書きたい!というこだわりがあるなら、何故散骨することを選んだのか?何故、方丈記を口にしたのかを作中で掘り下げてほしかった。


この作品は「ふたりの人間がいて、こういうことをしました」と書かれた日記か報告書を読んでいるみたいで、花梨が「なぜ小説を書こうとしたのか」語り部ちゃんが「一度は志したのになぜやめたのか」という彼女たちのバックボーンが見えない。

小説を書こうとしてやめた。何故?めんどくさくなったのか、向いていないと感じたのか、読む方が好きだったのか、他にやりたいことができたのか……そういう色々な感情が語り部の言葉で語られていれば、もっと面白い作品になったと思う。


ふたりの文学少女を出し、それぞれに全く違う道を選ばせ、散骨をするシーンで終わるという他の参加者にはない切り口で描かれ、独創性は申し分なかったので、だからこそ次に期待したい作品だった。



【審査員B】15点

『文学少女を文学少女らしく、本や読書、創作を愛する姿を書けているか?』

⑤花梨の、相手が読者から意識を切ってから話しかけるという姿勢は、極めて読書を楽しむ人間らしい。また読んだものを対話の中で相手に言語化させるのは、とくに数を読み物語に没頭するタイプにありがちな挙動であるため、解像度が高い


『作家、もしくはそれ以外の道を選ぶ理由、バックボーンを掘り下げられているか?』

⑤花梨は物語の紡ぎ手を志した。この理由は不明だが、断念した理由は非常に明確で残酷な死であり、有無を言わせぬ説得力がある


『文学少女に対して『癖』を込められているかどうか』

③洋の東西の宗教観や思想を、花梨は地続きのものとして認識し、自らという殻の中で品評を試みている。あえて自分自身という物差しを使うところに、まずは物語を楽しむという出発点が覗いており、興味深い


『文章、ストーリーが魅力的かどうかなど、その他の加点要素』

②あえて花梨という文学少女の描写を極限まで搾り、語り部に独白させることで対比から克明に文学少女性を浮かび上がらせようとしている試みがユニークである



【審査員C】

『文学少女を文学少女らしく、本や読書、創作を愛する姿を書けているか?』

②主人公ちゃん、友達の書いたものは趣味が合わないだろうからという理由だけで読まないのは本当に文学を愛しているのだろうか。


『作家、もしくはそれ以外の道を選ぶ理由、バックボーンを掘り下げられているか?』

②どちらもその道を選ぶ理由がわからなかった、私は何になったのかを聞きたいのではなく、なぜその道を選んだかの掘り下げが欲しいのである。


『文学少女に対して『癖』を込められているかどうか』

②酒をかっくらって遺骨を棄てるのが文学少女なら私の父も文学少女だったのかもしれない。一般人の私でも、友達の持ってきた小説は頼まれれば作品問わず読むぞ。


『文章、ストーリーが魅力的かどうかなど、その他の加点要素』

②この主人公くんはどうやって遺骨を手に入れたのだろう、もし花梨が孤独なのであればそれを如何にして伝えるのが掘り下げなんだと思う。

私の察しが悪く読み落としがあったのなら申し訳ないが、私目線では説明不足に感じてしまった無理のあるストーリーだった。

文章自体は違和感なく、むしろ好ましいと言っても良いものだった。

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