「俺、ヤモリ」

蛙鮫

「俺、ヤモリ」

 俺はヤモリ。なんで自分がヤモリって分かるかって? それは人間が勝手に呼んでるからさ。


 なんで人間の言葉が分かるかって? そんなもんこっちが知りたいさ。


 今は死に損ないのババアとボロい日本家屋に住んでる。正確には居候だけどな。


 腹が減ったから、いつもの電灯に向かった。電灯に向かうと虫がわらわらと光にたかっていた。俺は一匹,また一匹と平らげた。

 

 ここにいると飯にこまらねぇから楽だぜ。真下ではババアがテレビを見ている。


 足腰弱いし,やる事ねぇから毎日テレビを見ている。退屈じゃないのかねー


 するとババアが俺に気付いたのか。俺の方を向き始めた。


「おおー、ヤモリか。いつもそばにいてくれてありがとうね」

 ババアが俺に笑いかけた後,別の方に目を向けた。そこには写真があった。


 ババアと同じ歳くらいのやつが隣にいた。おそらく旦那だ。


「あの人がいなくなってから寂しくてね。誰でもいいからそばにいてほしかったんだよ」

そう言ってババアがまた口角を上げた。俺は照れ臭くなり、屋根裏に戻った。



 次の日,ババアが冷たくなっていた。


 程なくして,近くに住んでいたやつがババアを見つけて家は壊されることになった。


 それから俺は都会に出た。都会の日々は面白いが,たまにババアを思い出す。


 ここには人も虫もなんでもあるがあそこにしかなかったものがあったんだと今でも思っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「俺、ヤモリ」 蛙鮫 @Imori1998

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ