第2わん コジロー、再び犬に転生させられる
俺は
その死後コジロー(チワワ・オス)に転生し、天寿を全うすることになる(享年14歳)。
(今はどうなったのかって?)
全体が真っ白な空間にいる。
そして、目の前にはチャラミー・ハスッパーという自称神様がいた。
顔の造形は若く十分に美人と言える範囲にあり、そのプロポーションも均整の取れた美しいものと見受けらる。
だが、髪は寝ぐせなのかボサボサ、服はヨレヨレのシャツの上にさらにヨレヨレの白衣を羽織っているという有様。
そんな身だしなみや言動、その他諸々が何とも残念系美人に仕上げていた。
そのチャラミー、俺をチート能力有りの異世界転生をさせてくれると約束したのだったが、なぜか現世の犬に転生させたペテン師でもある。
「ぷっ」
くわえタバコのままだと、言葉が発しにくいと思ったのだろう。
チャラミーは、その場にタバコを吐き捨てた。
そして、しばらく口をもごもご。
「ぺっ」
吐き捨てたタバコを、今度はつばを飛ばして消火した。
そうだ、こういう女だった。
いい加減で行動が雑、そして面倒臭がり。
前回、俺が犬に転生させられる前に会った時もこんな感じで、ロクな説明もないまま転生させられた記憶がある。
まあ、俺もチート転生と聞いて舞い上がってしまい、深く聞こうとしなかったのも悪かったのだが……。
そのチャラミーは、火の消えたのを見届けるとうなずき、こちらに向き直り口を開く。
「で、なんだっけ?」
なんだっけ、じゃねえ!
お前が勝手に俺を呼び出して、勝手に話しかけてきたのだろうが!
さて、どうやって前回の転生について文句を言ってやろうかと思っていると……。
チャラミー、何かを思い出したようにヨレヨレの白衣のポケットに手を突っ込んで、これまたクシャクシャになったメモ帳を取り出した。
「えっと、『わんちゃん』『わんこ』『わんわん』……当然だな、全て使い古されてる」
何やらブツブツ言いながらメモをめくり始める。
「うーん『チワワ転生』もダメ。では『犬君』これも微妙だな。いっそのこと『お犬様』とかどうだ……げっ、これも枠が埋まってるぞ!」
この女は何を言っているのだろうか。
よく分からないが、何だか嫌な予感がする。
確か『チワワ転生』もそうだけど、犬とか犬を連想させる単語ばかり出てきていた。
「おい。まさか、また俺を犬に転生させるつもりじゃないだろうな?」
思わず口に出していた。
さすがに自称とはいえ神様を名乗る相手に失礼な言葉使いだったか、とちょっぴり不安になる。
だが、その懸念は不要だったようだ。
むしろ、嫌な予感の方が的中していた。
「そうだけど、何で?」
チャラミーは、きょとんとした顔でメモ帳からこちらに向けて平然と肯定しやがったのだから。
「何でって、お前……前回のこと忘れたのかよ!」」
「前回って……あー、アンタが犬になって満ち足りた生涯を終えたこと?」
「ぐっ……!」
「だったら今度も犬でいいじゃん」
いや、確かに満ち足りた生涯のところは否定できない。
その最たるものは、
彼女のような飼い主と出会い、共に過ごせたことで、結果的には幸せな人(犬)生を送ることが出来た。
でもさ、それはさておき最初の約束と違うだろ!
「お前さ、俺を異世界にチート能力を持たせて転生させてくれるって言ったよな?」
「そうだっけ?」
「そうなの! それが何で現世で犬に転生になっているの!?」
「あー、それな……」
チャラミーはポリポリと頭をかきながら、面倒臭そうに説明を始めた。
「端的に言うと、先立つものがなくなったからだな」
「意味が分からん」
「チート転生もそうだけど、異世界へともなると多大なコストがかかるんだ」
「コスト?」
「そ、言うなれば神力(しんりき)ってやつな。普通に人から人への転生とか、異空間(世界)を移動するだけでも大量の神力が必要となる」
「だが、そんなの最初から織り込み済みだろう。何で急に
「それはな……あーっ! 面倒クセーな、もう!」
チャラミーは、突然頭をかきむしって声を荒げた。
そして説明を中断すると、先程まで見ていたメモ帳を再びめくり始める。
「あ、まだ空き枠あるじゃん『サド
「お、おい。ちょっと待てよ、説明の途中だろうが……それに『サド
「説明とか面倒クセーんだよ。どっちにしろ異世界とかチートとか無理なんだから、大人しく犬になっとけ!」
犬になっとけじゃねーっ!
理由も分からないまま、二度も犬になんかされてたまるか!
もう勘弁ならん、一発殴ってやる!
(げっ、体が動かねえ……)
一歩踏み出そうとして、足が動かないことに気づく。
それどころか、全身が指先一本たりともピクリとも動かせなくなっていた。
すると、チャラミーがこちらに近づいてきて、動けない俺の頭に手を置く。
「無駄な抵抗すんなよな。ったく手間がかかる……」
頭に乗せられた手を振り払おうと思うも、やはり動けない。
すると突然、目線が低くなった。
というか地面が目の前にある。
(ま、まさか……)
自分の身体を見る。
手足は人の物ではなく、全身も白と茶の体毛でびっしり……。
(やはり、犬になっている!?)
一度犬になった経験からか、すぐに分かった。
そして、思考に急に靄のようなものがかかり始める。
(……ヤバい! 脳が犬化して思考能力が落ち始めた!?)
そんな俺の焦りとは裏腹にチャラミーは、よし仕事終わりの一服だ、とか言ってタバコに火をつけていた。
(こらーっ! 勝手な事するんじゃねー!)
口を動かすことも出来ないので、目線だけで抗議の意思を訴える。
「お、まだ面倒事が残ってるな……まあ、神自らがやる必要あるのは転生までだからな。あとは丸投げでいっか」
チャラミーは、俺の抗議の目線を無視してそう呟く。
そして、現れた時と同様の空間の歪みが生じたかと思うと、それに吸い込まれるようにして姿を消したのだった。
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