サド犬転生・魔法少女の使い魔となったわん!
にしき斎
第わんわん 悲しき別れ……そしてコジロー、人としての記憶を取り戻す
「コジロー、死んじゃヤダよ……」
僕の手を握って女の子が泣いている。
(ごめんね)
僕も死にたくはない。
君とは、もっと一緒にいたかったよ。
でも、おそらく寿命だろう。
僕の身体は、もうほとんど自由が利かなくなっていた。
(ああ、君との思い出が駆け巡ってゆく……)
それは、最初の日。
生まれたばかりの君が、この家に来たときをの場面を思い出す。
新しい家族を迎えて、僕はとても喜んだっけ。
そして、幼い君と過ごした日々が過ぎ去っていく。
次は、特別な日。
小学校の入学式の場面だった。
真新しいランドセルを背負った君は、とても眩しかった。
はにかむその姿はとても可愛かったよ。
時は移り、何気ない日常の日々。
毎日のように公園へ散歩に行っていたね。
いつも待ちきれなくて催促する僕を、君は仕方ないなあと言う顔で見つめていた。
(楽しい日々だったなあ……)
明るく優しかった君。
君と過ごせた日々は僕にとって、とても幸福で満ち足りた日々だったよ。
でも、そんな明るかった彼女の表情が、最近になって陰りを帯び始めたのだ。
(そう、両親の不和)
最近はお互いが顔を合わせるのを嫌ったのか、どちらも家にはほとんど寄り付かなくなってしまっていた。
たった一人の娘を広い家に残して……。
君は一人で過ごすことが、いや、僕とだけ過ごすことが大半になっていたね。
それだけじゃない。
他にも何かに悩んでいたようだったのを覚えている。
それは何なのか、僕には最後まで知ることが出来なかったけど……。
君は、僕に対しては無理して笑顔を向けてくれていた。
いつも心配していたんだよ。
でも、君の悩みを解決するどころか、相談に乗ってあげることも出来ない自分が歯がゆかったんだ。
(だたひとつの心残りがこれだ……)
そんな悩みを抱えている君を、もうすぐ独りぼっちにしてしまう……。
(ああ、もうだめだ……ほとんど何も見えない、君の声も遠くなってゆく……)
この世と、彼女との別れの時がついに来たのだ。
意識が遠くなりはじめる。
(さようなら)
そして
(ありがとう、僕の大切な妹まつりちゃん……)
(……?)
そこは真っ白な世界だった。
どこを見ても真っ白な場所に、僕はポツンと
(え、ここどこ? 確か僕は……)
そうだ、僕はコジロー。
チワワという種類の犬で、ペットとして飼われていた。
確か、寿命が来て死んだんだっけ……。
(……いや、何かおかしい)
妙な違和感を感じたので記憶を手繰ってみると、急に頭の中が鮮明になってきた。
……そうだ!
僕は……いや俺は、佐々木 小次郎(ささき こじろう)。
ⅠT企業に勤める31歳のサラリーマンで、交通事故で死んだはずだ。
(そういえば、この景色にも見覚えがある!)
仕事帰りに寄ったコンビニ。
店を出た俺に向かって突っ込んでくる車。
フロントガラス越しに見えたのは、焦った様子の老人の姿……。
右手は民家のブロック塀、左手はその車が迫る。
おそらく、アクセルとブレーキを踏み間違えたというよくある話だろう。
俺はそれで、あっけなく人生を終えたのだ。
(そのあと、この場所に来て確か……)
そう、アイツが現れて、もう一度人生をやり直さないかと勧められたんだった。
その記憶を思い出して、あることに気づく。
(騙された……)
であった。
異世界転生とかでチートでヒャッハーかと思ったのに、転生先は現世。
俺は東京生まれの東京育ち、転生先も東京23区内(散歩に出た代々木公園に見覚えがあった)だった。
いや、それだけではない。
転生したのは人ですらなく、何も
そして俺は、その犬の生涯もたった今終えて、この場所に来た。
(それにしても何で今まで、そんな大事なことを忘れていた?)
記憶をたどってみることにする。
(確か、犬に転生した直後は……)
……。
……。
……。
(なるほどな)
犬にとって、人の知性に基づく思考は脳に負荷がかかりすぎる。
だから、無意識に人間としての記憶や思考を抑えていた。
まあ、精神的ショック(犬に転生)もあって、現実逃避していた部分もあると思う。
さらに加えるなら、その環境だ。
転生当初は、まだ茉莉の生まれる前で、その両親に引き取られたところから始まった。
ペットであった俺を子供代わりに可愛がってくれて、何不自由しない生活だったと思う。
そして、茉莉が生まれての幸せな日々を過ごすうちに、もうどうでもいいや幸せだし、と言う感じで完全に犬堕ちしてしまったのだ。
(だが、犬としての肉体や脳から解放されて、元の思考力を取り戻したってことか)
だが、ふと疑問に思う。
死んで脳も肉体もないのに、思考ができるとはこれいかに?
いや、身体もあるし頭もあるな。
自分を見ると、顔は鏡がないから分からないけど、人の手足や身体をしているのが分かった。
死んだはずなのに、これはどういうことなのだろう?
等と思っていると、目の前の白一色の景色に
(あ、これも見覚えがある。このあとアイツが出てきたんだ!)
オレンジ色のボサボサ髪、ヨレヨレ白衣の見た目
それが、空間に浮き上がるように現れる。
「おっ
左手を白衣のポケットに突っ込んだまま、右手を『よっ』みたいな感じで上げて、くわえタバコのまま、やる気なさげな挨拶をしてくる。
その人物、それは前回と同じアイツだ。
自称神様のチャラミー・ハスッパー、 俺を犬なんかに転生させた張本人だった。
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