5章 官能小説風・解決編

<作成中の推理小説パート>


燭台の揺らめきが、洋館の廊下にしなやかな影を落とす。

その薄闇を切り裂くように、探偵・御堂 剛はゆっくりと歩を進めていた。

床板に残る足音は、まるで誰かの鼓動に重なるかのように熱をはらんでいる。

この夜は湿度までが官能を誘うかのようで、壁際のランプが艶めく微光を放っていた。


ほど近い部屋の扉がわずかに開いており、そこから甘い香りに似たものが漂ってきた。

そして、その奥に立っていたのは看護師・遠藤。

仄暗い灯りを背にした遠藤の白い腕は、まるで誘うようにそっと扉を支えている。

「探偵さん、今宵はいろいろとお疲れでしょう。

当主のお部屋は私が見ていますから、よろしければ少し休まれては…」


遠藤の声は、唇から零れ落ちる蜜のように艶めかしい響きを帯びていた。

御堂はその言葉を受けながらも、かすかな違和感を拭えない。

まるで彼女が、己の欲望と罪を隠そうとする薄絹のように優美な仕草で近づいてきたからだ。

「お気遣いありがとう。

だが、今はこの事件の結末を見届けなければならない」

御堂は目を伏せたまま、小さく首を横に振る。

すると、遠藤は唇をかすかに歪め、しなやかな手つきで扉を閉めた。


まるで媚薬のように濃厚な空気が廊下を覆う中、奥の部屋から執事・三谷が静かに現れた。

彼のまなざしはひどく落ち着いているようでありながら、その奥に際立つ暗い欲望が、御堂の目にはありありと映っているように思えた。

「探偵様、こんな夜更けまでお疲れのことかと。

もしお休みになるなら、私がご案内いたしましょう」

まるで巧みな誘惑を織り交ぜるように、三谷の声は低く、絡みつくように部屋の空気を震わせた。


それでも御堂は、まるで炎の奥に隠された秘密を暴くかのように薄目を開いて微笑む。

「その必要はない。

密室殺人の謎は、今こそ解かねばならぬ時を迎えたのだ。

お前たちの企みと、互いを支える激情を洗いざらい暴くためにな」

その言葉に、三谷の瞳がわずかに揺らぐ。

遠藤の唇から、ささやかな息が漏れたようにも見えた。


一室に集められた少数の者たち。

残された登場人物は探偵・御堂、そして執事・三谷と看護師・遠藤、それに医師が一人。

当主・昭三は危篤状態で寝たきり、外部からの来訪者はおらず、三兄妹はすべて殺害されている。

こうして、三谷と遠藤が対峙する形となった室内には、甘くも重たい張り詰めた空気が漂っていた。

遠藤はまるで獲物を見据える獣のように、三谷の傍らへ寄り添っている。


御堂は静かに口を開き、囁くような低音で二人の視線を捕らえた。

「まず、施錠された部屋の鍵を外から開けるなどという不可思議が、実際にどのように可能となったかを語ろう。

三谷、お前は当初よりこの洋館のセキュリティシステムを熟知していたはずだ。

書斎は電子ロック、寝室は古い金属鍵。

だが、いずれも外部から干渉できるように微細な細工が施されていた」


御堂の指が、まるで官能的なダンスを踊るかのごとく、そっと机上の鍵を持ち上げてみせる。

淡いランプの光に照らされた金属が、妖しい輝きを放つ。

「あらかじめ鍵穴に仕込んでおいた極小のフックを遠隔操作して、鍵を回す。

外からは到底見破れない微細な構造を、お前たちは共同で作り上げていた」

探偵の声は絡みつく甘い香りのように低く、三谷の奥底に眠る欲望を炙り出すかのようだった。


その言葉に、三谷の頬がかすかに震える。

遠藤は鍵をじっと見つめ、唾を飲み込むように喉を鳴らす。

まるで二人が共有する禁断の秘密に触れられ、甘美と恐怖が混じり合った官能を味わっているかのようだった。

医師は壁際で気まずそうに視線を落とし、何も言わないまま固まっている。


やがて御堂は、じりじりと二人へ近寄る。

「さらに、お前たちが狙ったのは財産だ。

当主・昭三を毒殺しようと画策したが、彼の子ら――長男、長女、次男がそれぞれ手出しをしようとした。

それが邪魔であったゆえに、先に三兄妹を密室で仕留める必要があった。

甘く淫らな唆し合いの末に、お前たちは共犯へと堕ちたのだ」


遠藤の目に、しとどな光が宿る。

まるで偽りの仮面が剥がれ落ち、官能的な隠微さがむき出しになるかのように、彼女は三谷と視線を交わす。

微かな身じろぎが、その艶やかな白衣の布を揺らすたび、血の匂いとは別種の生々しい匂いを立ち上らせていた。

「御堂さん…あなた、どこまでご存知で」

潤む瞳を向けながら、遠藤は言いかけて言葉を切る。

三谷は黙したまま、彼女の肩に手を添えた。

その仕草がどこか甘美な連帯感を示唆し、犯人同士の絆を象徴しているかのように見える。


御堂は机の上に鍵を音を立てて置き、ゆっくりと二人を指し示した。

「真実は、すでにここにある。

三人の死をもたらした密室殺人のトリックも、財産を狙う動機も、すべてはお前たちが仕組んだ狂宴だったのだ」

三谷が微かにかしずくように頭を垂れ、遠藤はそれを静かに見守っている。

その様は、耽美な破滅を分かち合う恋人同士にも似ていた。


御堂は苦い息を飲み込むように言葉を継ぐ。

「それが欲望の果てなら、もう隠し通すことはできないだろう。

さあ、真犯人はあなただ――執事・三谷、そして遠藤。

あなた方の愛欲が絡み合い、神木家の財産という誘惑に溺れ、血と罪の結末を招いた」


部屋の隅で息をのむ医師。

廊下の奥からかすかに聞こえる風の音が、その官能的な緊張感を囁くように高めている。

三谷と遠藤は互いの指を絡めるようにして握り合った。

まるで、捕縛される瞬間にもなお甘美を感じ取ろうとしているようだった。


そして、あくる朝。

執事・三谷と看護師・遠藤は御堂の推理を前にして、その背徳の共犯を認めた。

幼子のように震える指先と、唇を噛みしめる横顔が、むしろ扇情的な輪郭をかたどる。

彼らは財産を求め、そのために当主を毒殺しようと画策し、それを阻む三兄妹を排除したのだ。

この欲望の劇場は、溶け合うような淫らさと共に、ひっそりと幕を閉じた。


<文芸グループパート>


「…え、ちょっと待って」

オンライン会議でテキストを読み終えた駒形 宗次が、あっけにとられた顔を画面に映している。

「これ、解決編ですよね。

でも官能描写ばっかり目立って、肝心のトリックや動機の説明が薄いような…」


「私、書きたかったのはこういうエロティックな絡み合いと、罪の匂いが漂う感じなんですよ」

笑みを含んだ口調で橘 貴子がさらりと答える。

「推理部分はしれっと盛り込みましたけど、ほら、ちゃんと真犯人が執事と看護師ってことは説明しましたし」


北園 七海は口をぽかんと開いたまま、「確かに共犯関係は分かったけど…やたらと濃厚すぎませんか。

読者がどこに注目すればいいのか困惑しそうですよ」と、小さく肩をすくめている。


御子柴 隆士は「SF的ガジェットはもう死んだのか…」とぼやくようにうなだれる。

「電子ロックの細工とか、量子どうこうって話はどこ行ったんですか。

結局、淫靡な表現が多すぎて執事と看護師の愛人関係が主軸になってるんですけど…」


加賀 美里はむしろ感心した様子で、「なるほど、濃密な愛憎劇として読むなら面白いわね。

でもこれ、推理小説としてどうなのかしら…」と首をかしげている。


西園寺 凌介が画面越しに淡々と言葉を投げた。

「論理展開よりも関係性に重きを置いていますね。

ただし事件の全貌は掴めたようで掴めない印象を受けます。

読者には真犯人が分かっただけで充分なのかどうか…」


駒形は苦笑を浮かべながら、「でもまあ、官能パートが強烈なのは予想してたけど、ここまでとは。

これじゃ本当にR指定の推理になりそうだ」とメモ書きを閉じる。

「一応、これで解決編ってことなんですよね。

長男、長女、次男を密室で殺した犯人が執事と看護師で、動機は財産狙い。

方法は鍵穴への細工で遠隔操作していた、と…」


橘 貴子が満足そうに頷いて、「そういうことですね。

あとは最終章のエピローグでどうまとめるか、楽しみにしてます」と軽やかに付け加える。


北園 七海は「ここまで来たら最後もどうなるか分からないですね」と笑い、御子柴 隆士は「僕のSF要素はどこに行ったんだ」と愚痴をこぼし続ける。

加賀 美里は「時代小説調も薄れちゃったわね」と残念そうだ。

西園寺 凌介は「まあ、締切に間に合うなら何でもいいですが」と静かに文書を閉じた。


駒形 宗次は頭をかかえつつ、「これで一応、解決編は完成…したのかな。

次はエピローグをどうするか考えないと。締め切りまで時間ないから皆で分担して書いていこうか」と、とりあえず次のステップに移るしかないと覚悟を決めている。


こうして、罪と欲望の官能的解決編は、濃厚な余韻をまといながら第五章として仕上がった。

メンバーたちは各々の思いを抱えたまま、最後の章に向けたエピローグ作りへと歩みを進めていく。

全員で分担するエピローグは、果たしてどのような出来になるのか。

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