4章 時代小説風・探偵の推理

<作成中の推理小説パート>


洋館に立ちこめる霧は、まるで戦国乱世の烟のごとく、あたりを白灰色に塗りつぶしていた。

その気配の中、探偵・御堂 剛は廊下をゆっくりと歩み、三度の殺人が揺るがせぬ事実として迫る現状を静かに見据えている。

耳を澄ませば、古木が軋むような音が廊下を這いまわり、まるで忍びの足音を思わせる。

先の出来事により神木家の三兄妹がすでにこの世を去ったのは、屋敷にとって大きな痛手であろうが、それよりもなお深い闇が巣くう気配がある。


「かの執事・三谷殿が、つねづね要職を務めながらも、一体どのように各部屋の動きを把握していたのか」

御堂はそうつぶやくと、まるで合戦における軍略図でも広げるかのように、屋敷の見取り図を床に置いて見つめこんだ。

「看護師・遠藤殿は、当主・昭三の体調を最優先にしていると申すが、あの者が持つ鍵や注射器、そして薬瓶の数々が、密室の謎と無縁と断じてよいのか。

いや、むしろその背後には、古き武家のような利害が絡んでいるかもしれぬ」


そう言い終えると、御堂は廊下の片隅にある古めかしい甲冑に目をやった。

戦国の武者が身にまとった鎧のごとく、洋館に不釣り合いなほど重厚なそれは、神木家の歴史を象徴する品なのだという。

しかし、いかなる由緒があろうとも、ここで重要なのは、その甲冑に隠された細工や暗号めいた印がないか、である。

御堂は膝をつき、甲冑の継ぎ目を丹念に調べ始めた。

「まるで討ち入りの秘道を探るかのように、細部を検分せねばならぬな」


物音を聞きつけた執事・三谷が、いつもの静かな態度で近づいてくる。

「探偵様、甲冑などをご覧になっていかがなさいます。

それは神木家の宝物ではありますが、真相解明に寄与するとは思えませぬ」

御堂は面を上げ、三谷の顔を見据えた。

「何事も可能性の一端として否定はせぬほうがよい。

ときに、そなたがこの屋敷の見取り図を把握しておるのは当然として、兄妹たちの動向についてもすべてご存知か。

もしや、狭間の時間に異なる行動があったやもしれぬ」


三谷はそれ以上を語らず、平伏こそしないまでも、丁寧に頭を下げてみせるだけであった。

「はて、拙者に隠すことなどございませぬ。

ただ、かように連続した不幸が重なり、私も苦慮しているのです」

その言葉が真実かどうかを図る術はないが、御堂にはどうにも腑に落ちぬ気配が拭えない。


看護師・遠藤もまた、当主の寝室近くで手持ちぶさたに佇んでいた。

「探偵様、われらはただ医療のために尽くすのみ。

それでも密室の謎を解きほぐせるなら、お力添えしましょう」

だが、その声音にあるわずかな震えは、まるで武士の誓いを破った後ろめたさにも似ていると、御堂は密かに思う。


御堂は一度、洋館の大廊下に戻り、壁に飾られた古文書に目を通した。

神木家がこの孤島に屋敷を構えた経緯や、戦禍を免れるための地下通路の伝説など、どれも信ぴょう性に欠ける伝承の類が記されている。

しかし、その中には妙に生々しい記述も混ざっていた。

「呪詛の儀式を行い、己の欲望を満たすために血を捧げた」など、禍々しい言葉が走り書きされているのだ。

これが三兄妹の連続死と関わりを持つかは定かではない。

ただ、御堂の心中には、さながら敵陣深くに忍び込む兵士のような警戒心が芽生えていた。


その夜、御堂は書斎の資料棚にある古い帳面を取り出し、ひとりでページをめくり始める。

「こうして屋敷に連なる暗闇を探るうち、何者かの巧妙な企みに行き着くはずだ。

いずれにせよ、執事か看護師か、あるいは別の者か。

この密室の術を操るのは、まるで戦国の忍者のごとき者に違いない」

帳面には日々の来客記録が淡々と記されており、三谷や遠藤の名もたびたび登場している。

しかし決定的な証拠というには弱い。

それでも御堂は、ここに深い企みに似た匂いを嗅ぎとり、不穏な足跡を感じていた。


勝機を得るべく、御堂はあえて部屋に飾られた甲冑の脇差を手に取り、その重さを確かめた。

「この刀こそ、実際に使われたのかは分からぬが、何らかのヒントが刻まれておるかもしれん」

まるで真相を斬り裂こうとする戦国の将のように、御堂の視線は鋭く輝いた。


<文芸グループパート>


「え…探偵がなんで甲冑を調べてるんですか」

オンライン会議で原稿を読み終えた御子柴 隆士が、呆れた声を上げる。

「いや、これもう戦国ドラマじゃないですか。

洋館に甲冑があってもいいけど、そんなに尺をとる必要あるんですか」


北園 七海もちらちらと文章を読み返して、「私が描いた探偵ってこんな重厚な言い回しでしたっけ…」と首をかしげている。

「本当に推理を進めてるのか、ひたすら古文書を読んだり甲冑を触ったりしてるだけみたいに見えちゃいますよ」


西園寺 凌介は画面越しに淡々と意見を述べる。

「加賀さんの時代小説調は一貫していて面白いと思いますが、事件の情報が新たに得られたわけではないですね。

執事と看護師への疑いを示唆しているだけで、具体的な根拠は示されていない」


「いや、でも雰囲気は好きなんですよ」

橘 貴子がソフトな口調でフォローを入れる。

「甲冑とか古文書とか、神木家のダークな歴史の匂いがプンプンしていいじゃない。

ただ、時代劇口調がやたら続いてるから、本筋の殺人事件が霞んでる感じもするわ」


駒形 宗次は大きく息を吐きながら、「加賀さん、もう少し現代的な推理っぽい要素が欲しかったかも…」とPCの画面を見つめる。

「探偵がいきなり刀を握ってもなあ。

読者は困惑するでしょう」


その指摘に、加賀 美里本人が画面の向こうで神妙な表情を浮かべる。

「すみません。

つい、神木家の歴史にひと味加えようと思ったら、筆がどんどん時代小説に寄ってしまいまして…」


御子柴は苦笑してから、「これもう時代考証も何もないですよね。

現代の孤島にあり得ないレベルの古風な描写が混在してるし、戦国時代と絡めすぎると読者が混乱しますよ」と口をとがらせている。


駒形はメモ書きをぱらぱらめくりながら、「でも、これで第四章は完成ってことでいいんですよね。

いちおう探偵が執事や看護師を怪しんでるくだりはあるし」とまとめにかかろうとする。

「最後のほうで書斎の資料や甲冑を調べてるあたりは、謎解きに繋がるのかもしれません。」


北園 七海が思わずぷっと吹き出して、「ここまで来たら、もう何でもアリですね」と冗談めかして笑う。

「確かに、章ごとに作風がバラバラすぎて大丈夫なんですかね」


駒形は返す言葉に詰まりながら、頭をかきむしっている。

「大丈夫かどうか、もう僕にもわからないけど、締め切りは待ってくれない。

とにかく次の橘さんに期待するしかないな」


こうして、戦国テイストな重厚描写の第四章が完成し、一同は次なる展開にむけて動き出す。

官能小説好きの橘は渡されたバトンをどのように料理するのか。

探偵が甲冑を手にした理由が真っ当に説明されるかどうかは、まだ不透明なままだった。

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