亡き戦士と真紅の翼

きいろいの

真紅の翼 セレイの想い

 私は名前はセレイ。背中に大きな翼がある有翼人で、5年前までは冒険者の戦士エルアスと共に世界を回っていた。魔術が使えるので前衛を援護しながら戦っていたわ。

 今はもう冒険なんてしてない。何故ならエルアスが戦いで死んでしまったから…。5年経っても失った気持ちは消えてない。



 昔のことを思い出す…。私は有翼人でも真紅色に翼を持っていて、親からも街の人たちからも忌子として恐れられ嫌われていた。同年代の子と遊ぼうとしても私と遊んではダメと親から教わっていたのか相手にして貰えず無視されていたわ。

 唯一心の支えになったのは近くの森に誰かが作った隠れ家でいろんな本を見つけて読むことと小動物達と遊んだことよ。街の人間と違って警戒心がなくこっちに来てくれるもの。

 …だけど、14歳の頃にどっかの国のお偉いさんのせいの命令で森を破壊して新しい土地を作り始める計画を実行したのよ。ゴーレムの大群が森の中で木を破壊し始めてたの。私は隠れ家にあった本を持ち出して飛び慣れていない翼で急いで街へ戻ったの。後で知ったのだけど、その森は更に燃やしたと聞いて動物たちを見殺しにしたんだと後悔したわ…。

 家に戻ってから親に「その本をどこから盗んだんだい!」と取り上げられたの。魔術の本で何度も読んでしまうほど好きだったのに…大切なお宝を奪われた気分だったわ。


 私はもうこんなところには居られないと街を出る決心をしたの。誰も引き留めてくれないのは清々しいような寂しいような…と複雑な気分だったわ。大きくなった真紅の翼を広げて街を出た。思いっきり飛ぶと思った以上に高く飛べてびっくりしたわ。でも、風がすごく気持ちよくて鳥籠から飛び出した自由な鳥になれたみたいだったわ。



 街から出て数日が経ち、どこか知らない場所に着いた時に商人に「食料と水、安くしときますよ」と声をかけられてお金を払ったわ。しかし、食べ物と水に睡眠薬が仕込まれたみたいで気付けば檻の中。私は奴隷として売られると知り焦って魔術を唱えたわ。…でも、魔術が出ないように檻には魔法陣が付与されており何も出来なかった。また不自由で辛い思いをするかと思った瞬間…。


「お前達!その子達を解放しろ!」


 勇ましい男性の声が聞こえたわ。その人だけじゃなく仲間達も私たちを解放したわ。


「君、怪我はないか?」


 そう話しかける彼こそがエルアス。こんな形で初めて会ったの。


「大丈夫ですけど、私は…」

「ん?君の翼、とっても赤いね」


 そう言われてドキッとした。私は普通の人間にも嫌われてしまうのかと…。でも彼は違った。


「情熱的で良い色だね」


初めて翼の色に褒められて涙が出たわ…それと同時に私は彼を………。


 エルアス達が他の場所へ旅に出ようとした時に私は一緒に連れってって欲しいとお願いしたわ。帰る場所もない、受け入れてくれる人もいない。だけど、エルアスだけは私を受け入れてくれた。そう思ったから…。エルアスの仲間達は困惑したがエルアスは「無茶はしないでくれよ」と仲間にしてもらった。


 あれから一緒に多種族の街や雪の街、山頂まで行って伝説の神獣に出会って遺跡を探索して…新しい発見があって楽しかったわ。



 だけど、私が冒険者として最後の戦いとなったあの時が来たの。ハイドキメラという蛇の頭が数本尻尾にまで生えていて大きな翼に獣の爪、身体から冷気を出す化け物、誰が作ったかわからない氷雪合成魔獣が私たちの前に現れたの。恐らく私たちが都合の悪い集団だと思った奴が犯人ね。辺りの草原を全て凍らせて私たちの身体をも凍らせようとしたわ。私は炎の魔術ですぐ溶かしたのだけど、それ以外のことが出来ないほど相手の凍結効果が凄かったの。仲間達は何度も近づいては寒さで力が落ちていくわ、ハイドキメラの口から大きな氷柱が飛んでくるわで今まで戦った相手より強敵…いや、それ以上だったわ。

 そして遂に私の魔力が尽きかける。私自身も感覚が無くなりそうなほど手足から凍っていく。それでも死ぬ気で、魔力を尽きてもエルアス達を守るんだと強く思った。


「頑張るのよ、私!!」


 目を強く瞑って開いた。気付けばハイドキメラの氷柱が私に目掛けて飛んで来る。


「ああ、もうダメなのね」

「セレイ!危ない!!」


 ザシュッ!!


 飛んできた氷柱は…私の目の前に来たエルアスに刺さったわ…大きな氷柱で流れる血も全て凍って顔が真っ白になっていく姿…今でも忘れられない…。


「セレイ…ごめんな…ごめん」


 そう言って彼は息を引き取った…誰から見ても致命傷だったわ…。ハイドキメラはエルアスを殺したのを見て満足したかのように何処かへ飛び去ったわ。仲間達もエルアスの姿を見て泣いていたと思うわ。



 エルアスは故郷の街で葬儀が執り行われ、彼を慕っていた多くの人間が泣いていたわ。そして今、私の目の前にいる墓こそがエルアスの墓…私は毎年ここに来ると誓ったの。

 死んでから1年、2年、3年、4年と経って気付けばここに来ているのは私だけ。旅の仲間だった人達が誰も来なくなったわ。その人に対して私は自分自身に忘却の魔法で忘れるようにしている。だから今はエルアスしか覚えていない。


 …どうして本当の気持ちを言えなかったのかしら。私はエルアスのことを惚れてしまって、死ぬまで一緒にいたいと告白すればよかったと後悔している。

 私は何があってもエルアスを忘れたりしない。私は老いても貴方へに情熱的な愛を送り続けるから。

 また来年、来るからね…。



—————————



 戦士エルアスの墓は綺麗に磨かれ、赤い薔薇の束と真紅の羽が添えられていた。



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