第4話 『変換』

「ここまで来れば、安心ですね」


 俺とリサはなんとか安全地帯まで逃げ切り、やっと落ち着いた。リサはキレイな長髪を両手でかき分ける。ノーヘルだったが、こんな状況ではとがめる者などいない。


「すまねぇリサ、助かった。けど、どーして君が現実ここに?」

「ヒロシ様。私は『あの』直後、あなたを追って穴に飛び込みました」


 えっ……⁉ 今、サラっとすごいこと言わなかったか?


「なっ……あの直後って、異変のことか⁉ なんて無茶なマネを……」


 一歩間違えたら、ガチで4ぬからな。そんな俺の両手をリサは、優しく握った。


「リサ……?」


「ヒロシ様。私たちは貴方に大変、助かられました。今度は貴方を助ける番です」


 なんて義理堅いだ。だが、俺は自分の予想以上に安堵した。この『異常』な状況下、知ってる顔に出会うのが、どれほど心強いことか。


「だとしても、よく大穴に飛び込んだな。でも、また会えて嬉しいぞ」

「私もです、ヒロシ様。『あのまま』お別れなんて、あまりにも寂しいですから」


 おっと、感傷に浸るのはここまでだ。こんな『状況』でなければ、もっと『再会』を喜んでたんだがな。


「リサ、来て早々びっくりしたろ? 俺も何がどーなってるか、サッパリなんだ」

「そうですね……この世界では、尋常ではない『何か』が起こったようです」


 それこそ異世界むこうの比ではない。一体、何が起こったというのか……?


「……しかも、現実こっちじゃ『魔術』が使えねぇ。それで、さっき8られそうになった」


「ヒロシ様。どうも現実ここでは『世界の法則』が異なる為、力を『直接』行使することは出来ないみたいです。私の場合、体が覚えていたといいますか……」


 成程…直接的と間接的で、そこまで違うとは。


「ですが、ヒロシ様。『元々の力』をこちらの世界に『変換』することは、出来るのではないでしょうか?」


「ん? そりゃどういう意味だ?」


「自然界の力を『現界』することは出来ませんが、現実こちらの力に『置き換える』ことは出来るかもしれません。私の『騎乗』が、そのままバイクの操縦に繋がったように」


 置き換える……か。俺は異世界むこうでは『大賢者』として、様々な魔術を使えた。例えば『火属性』の炎閃ファイアボルト……その名の通り、火のイメージを『媒体』とする。


 これを現実こちらに置き換えると……俺は強く『イメージ』した。魔術が使えない以上、奴らゾンビに対抗する力が必要だ。その『代わり』となる力は……!


 ヴンッ! 虚空から『銃器』が現れた! これが現実こっちでの俺の『力』か……! 『火』属性の魔術は、重火器類に『変換』されるようだ。


「流石です、ヒロシ様。……っ! ヒロシ様っ、後ろ!」


 リサが指差す方向には、多数のゾンビが! コイツら、意外と足速ぇな。身体の制御リミッターに制限がないからか?


 俺は出現したM16アサルトライフルを構えた! 手に取った瞬間、使い方が分かった。『こっち』での魔術みたいなもんだしな。


 押し寄せるゾンビを蜂の巣にする俺。しかも弾薬は俺の『魔力』依存らしく、弾切れになるのこともなかった。


 威力も『炎閃ファイアボルト』並みで、ほとんどゾンビを一撃で蹴散らせた。三十分も経たない間に掃討できた。


「すごい……もう全滅させるなんて」


「とりあえず、一難去ったか。リサ、まずは『安全』な場所を確保するぞ」


 戦いは始まったばかりだ。



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