ユートピアと言う名のディストピア

讃岐うどん

いざ自殺!


俺の人生は、思い返さなくともクソだった。

小中高とイジメられ、友達はできず、親には否定ばっかされてきた。

精力的な姿勢が育まれることは無く、ただ怠惰な生活を送った。

運動神経も良く無い。スポーツは大っ嫌いだ。

特にサッカー、ドッジボール。

あんなの合法的な暴力じゃないか。

運動神経の良い奴が主導権ボールを取り、思うがままに動かす。

その癖して、俺に主導権ボールが周れば、「パスしろ!」「遅いンダよ!」「調子乗んな!」の罵詈雑言。

彼らは暴言で支払って、主導権ボールを奪い去る。それを、周りの奴は誰も止めない。

皆んな、黙って見ているか、一緒になって俺を責め立てる。



それが嫌で、勉強に逃げた。

必死になって、ペンを握った。ノートに文字を書き殴った。

単語を、数式を、知識を、全て頭に刻んだ。

来る日も来る日も勉強をした。一生懸命、志望校に合格するために。

なのに、俺は受験にも失敗した。

高校受験も、大学受験も、就職活動も。

どうして? 俺が何かしたの?

それなのに、運動神経の良い一軍……所謂『陽キャ』は、推薦やら実力で志望校に合格した。

何で? 俺の方が必死に努力した。

何で? 神さまは、人に二物を与えたの?

皆んなが勉強している時も、勉強した。

皆んなが遊んでいる時も、勉強した。

皆んなが寝ている時も、勉強した。

なのに、俺は『陽キャアイツら』に負けた。悔しかった。涙でノートが滲んだ。クシャクシャになったページには、今までの努力が書いてあった。

でも、無駄だった。ふざけるな。

何で……俺が……アイツらなんかに……!

ギュッと握った拳には、汗が滲んだ。マンガみたいに、血は流れない。そもそも、そんな筋肉がなかった。



就職活動にも、俺は失敗した。

大学受験に失敗した俺は、滑り止めの私立大学に入学した。そこは、地元でもかなり有名だ。

県有数のボーダーフリー大学Fランだって。勿論、俺が入学した時も定員が割れていた。

入学式の時点では、俺は希望を抱いていた。

「これからだ」「まだやり直せる」「大学生活で挽回する」「友達を、彼女を作る」

そうやって、甘い希望を持っていた。

でも、それはすぐに間違いだった気づいた。

人間、少し置かれた環境が変わったぐらいで本質は変わらないらしい。

内気で、コミュ障、根っからの他責思考の俺は、ボッチになった。

お陰で、就職活動では喋ることがなくて、大企業に内定を貰えなかった。

唯一貰えたのは、地元の小企業。それも、超ブラック。度の付くぐらいには。



この前、同窓会があった。

5年ぶりぐらい、高校主催でだ。

奇跡的に俺も呼ばれたんだ。折角なら行ってやろう。俺以下のやつを見下してやろう。高校時代あのときの復讐をしてやろう。

そんな下衆な考えを持って行った。

だけど、そんな幻想おもいは直ぐにこわされた。

「え、オマエ変わってねーな!」「オマエは随分変わったなぁ」「有一ゆういち、オマエ起業したんだろ?」「年収1000万だって? 凄えよ!」「はは、まぁな! ウチ転職する来るか?」

皆んな、和気藹々としていた。それは正しくあの時の様で、忌々しい。俺は直ぐに抜け出した。誰とも喋らず、目も合わせず。

誰も、俺を止めようとはしなかった。それもそうだろう。こんな奴、居ても楽しくない。

それならこっちから願い下げだ。



一人、薄暗い夜道を歩く。

チカチカと点灯する街灯。その足下には新しめのゲロ。どこかの酔っ払いのだろう。

今の俺は、コレと同じ……いや、そんな事は……。

歯切れの悪い思い。答えが出なかった。

今の俺を、かつての俺が見れば惨めだと言うだろう。こんなのあり得ないと笑い飛ばすだろう。

ああ、そうであってほしい。そうして、俺を超えていけ。

これが格差。これが世界。

それを知ってから、俺は考えるのを辞めた。



名のある作家なら、この駄作じんせいを名作に変えてくれるのか? 脚本家でもいい。

誰に言えば、俺は救われるのか?

俺の努力は、俺の希望は、報われるのか?



知るか。もう、どうでも良い。

関係のないことだ。もう、どうにでもなれ。

話題の『退職代行サービス』を使った。俺は会社を辞めた。

そして今日、

アパートが事故物件になるのは申し訳ないと思ったが、もう関係無い。それに大家は嫌いだ。最期に盛大な嫌がらせができて清々する。



じゃあな、世界。

平等を謳う不平等よ、さようなら。

次があるのなら、俺を強者にしてください。



「だ、そうです。どうしますか? よ」

「……普段、私は私情では動かない。法に則り、裁定を下す。だが……」

……ですか、何とも悪趣味だ事」

「好きに言いたまえ、いいだろう。70億人に1人だ。彼からすれば、これは光栄な事だ!」

「はぁ……知りませんよ。全く……」



俺は、今、白い世界にいた。

そこは雲の上の様で、わたあめにも似ていた。

俺は此処を知らない。見た事もなければ聞いた事もない。

「当然です、何せ

どこからともなく現れた、天使らしき人物。昔読んだキリスト教の本に載っていそうな人物、

そのものだ。

「疑問は御もっとも。ですが、口には出さなくて結構。

言っている意味が分からなかった。だが、悪い事ではないのは確かだ。

さっき、アレはここが『天国』だと言った。

なら、俺は……

「ええ。ご想像の通り、亡くなっています。死因は窒息。首吊りによる自殺です」

言葉にならなかった。不思議な感じだ。

死んだと言うのに、俺は地面に立っている。手足の感覚も、痛みも、飢えもある。

コレではまるで……

「生きているのと変わりない……ええ、ですが安心を。我らが神は言いました。『』と」

慈悲を。その言葉に、心臓がキュッとなった。

神さまが実在した? 俺はどうなる?

その疑問に答えるかの様に、彼女は口を開く。

「分かりやすく言えば、『可哀想なので助けてやろう』ですよ。さぁ、私の手を」

差し出された手を握る。

刹那、世界が一変した。


その世界は、まるで……

人っこ1人いないことを除けば、そこは都会だ。

「コレは、アナタのモノです。望めば何でも手に入ります。

パチン! と天使は指を鳴らした。

その瞬間、が生み出された。

その全てがどれも高級だ。

世界三大珍味やら、金箔の乗ったケーキやら、半径1メートルはあるピザやら、透明度の高いフカヒレスープなど。

その全てが……俺のもの。



気づけば俺ががっついていた。

肉を食い、スープをジュースの様に飲み干し、デザートにケーキを丸呑みする。

そうして、腹が一杯になった。

「コレで満足されては困ります。では次へ行きましょう」



かれこれ何時間経ったのだろうか。

俺は娯楽を貪り続けた。ゴルフを打ち、ゲームをし、ボウリングを嗜み、酒を飲む。

三代欲求を満たした。満たし、満たし、満たす。

ああ、コレが天国か!

欲しいものがあれば何でも手に入る。

要らないものは直ぐに捨てる! 

俺を縛るものは何もない! 

課題も、不安も、絶望も!

何一つ、ここには無い!

その世界は、まさしく天国ユートピアと呼べた。

















──彼にとっては

                   続く

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