第6話「父からの手紙」
校内予選2回戦の朝。奏人は早めに登校し、練習室で最後の調整をしていた。
「よし、この感じならいけるはず…」
ギターのストラップを調整しながら、ケースに手を伸ばす。その時、今まで気づかなかった小さな隙間が目に入った。
「ん?これは…」
慎重に手を入れると、一通の封筒が出てきた。少し黄ばんでいるが、確かに奏人宛ての封筒だ。差出人は、父・篠宮奏一郎。
手が震える。父が他界してから3年。この手紙の存在に気づかなかったなんて。
封を切り、中の便箋を広げる。
『奏人へ
もしこの手紙を読んでいるなら、君はきっと、ギターの真の力に気づいたはずだ。
そう、これは単なるギターじゃない。僕が生涯をかけて作り上げた、特別なソウルギアだ。
でも、大事なのはそこじゃない。
真の調律者は、楽器や精霊と心を通わせる者のこと。音楽は技術だけじゃない。心を開いて、感じるんだ。
奏人、君には特別な才能がある。でも、それは技術のことじゃない。
君には、人の心に触れる力がある。音を通じて、魂に響く何かを伝える力が。
このギターは、そんな君のために作ったものだ。
これを手に取る時が来たということは、きっと素晴らしい仲間と出会えているんだろう。
その仲間と共に、君にしか奏でられない音楽を見つけてほしい。
いつも見守っているよ。
父より』
読み終えた時、奏人の頬を涙が伝っていた。
「父さん…」
フレイムロッカーが、静かに奏人の傍らに現れる。
「パートナー、あの人は凄い調律者だった」
「え?」
「俺たち精霊は、代々の調律者の記憶を持っている。お前の父さんとも、かつて共に戦ったことがある」
フレイムロッカーは柔らかな光を放ちながら続ける。
「でも、お前は違う。お前には、お前にしかない音がある」
その時、練習室のドアが開く。
「おはよう、奏人く…あ、ごめんなさい」
律は奏人の様子に気づき、すぐに謝罪の言葉を。
「ううん、大丈夫」
奏人は涙を拭いながら立ち上がる。
「分かったんだ」
「え?」
「僕たちの音楽が、どうあるべきなのか」
奏人は父の手紙を律に見せる。読み終えた律の目が、感動に潤む。
「素敵な言葉…私たちに向けられているみたい」
「うん。だから…」
奏人はギターを構える。その手に迷いはない。
「今日の試合、全力で挑もう。僕たちにしか出せない音を、きっと見つけられるはず」
律も頷き、ピアノの前に座る。
二人の周りで、フレイムロッカーとルナハーモニーが優しく光を放つ。今までにない、温かな共鳴が始まっていた。
窓から差し込む朝日が、新たな1日の始まりを告げている。
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音霊奏者―異能力×音楽の学園バトルファンタジー― ソコニ @mi33x
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