第5話「隠された才能」
校内予選2回戦まで、あと3日。練習を終えた奏人と律は、夕暮れの帰り道を歩いていた。
「あの…律さんの家って、こっちなんですよね?」
奏人は遠慮がちに尋ねる。
「ええ。でも…」
律の足が止まる。表情が曇った。
「どうかした?」
その時、律の携帯電話が鳴る。ディスプレイに表示された"母"の文字に、彼女の肩が小さく震えた。
「もしもし…はい、練習中です」
受話器から響く声。奏人にも聞こえてくる。
「何度言えば分かるの!?あなたはクラシックピアニストになる約束でしょう!」
律は黙って電話を聞いている。
「いい加減な仲間と音楽を遊びにしているようじゃ、コンクールなんて…」
「遊びじゃありません!」
突然の律の声に、奏人は驚く。
「私は…私は本気です。この音楽も、仲間も、全部が本物です!」
電話が切れる。律の手が震えている。
「律さん…」
「ごめんなさい。こんなところ見せてしまって」
律は俯いたまま、謝罪の言葉を紡ぐ。
「家族は皆、クラシックの名門。私も幼い頃から、その道を歩むことが決まっていた」
奏人は黙って律の言葉を聞く。
「でも、調律者として目覚めて、あなたと演奏するようになって…初めて分かったの」
律がルナハーモニーを呼び出す。月光のような優しい光が、夕暮れの街を照らす。
「これが、私の本当の音楽」
「そうだよ」
奏人も、フレイムロッカーを呼び出した。
「律さんの音楽は、律さんのものだ」
「でも、家族は…」
「なら、証明しよう」
奏人は真剣な眼差しで律を見つめる。
「僕たちの音楽が、遊びじゃないって。新しい可能性を切り開いてるって」
その夜、律は一人で練習室に向かった。しかし、ドアを開けると、そこには既に奏人の姿があった。
「え?どうして…」
「どうしてって、これから特訓だよ」
奏人はギターを手に取る。
「クラシックの基礎も、僕にもっと教えてほしい。その代わり、もっと自由な演奏法も一緒に見つけていこう」
律の目に、涙が浮かぶ。
「新しい音楽は、きっとここにある。クラシックとロック、理論と感性、相反するものが出会って生まれる何か」
フレイムロッカーとルナハーモニーが、静かに輝きを放つ。
「私も…頑張る」
律が鍵盤に向かう。
「家族には、この音で伝えたい。私の選んだ道を」
深夜まで続いた練習。二人の音は、少しずつ新しい色を帯びていく。
翌日、佐伯教師が練習室を訪れた時、思わず足を止めた。
「これは…」
ピアノの旋律に、エレキギターが絡む。クラシックの格調高さと、ロックの持つ自由が融合した音色。それは、誰も聴いたことのない、新しい音楽だった。
「やはり、この二人には特別な才能がある」
佐伯は静かに微笑んだ。
「さて、明日の2回戦。どんな演奏を聴かせてくれるのかな」
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