第4話「校内予選の闘い」



星奏学園の掲示板前に、大きな人だかりができていた。校内予選の組み合わせが発表される日だ。


「見つけた!私たち、Bブロックね」

律が指さす先に、二人の名前があった。


「ダブルスか…」

奏人は気づいていなかった。校内予選は、なんと二人一組のチーム戦だったのだ。


「調律者同士の共鳴。それこそが、この大会の真髄なんです」

背後から佐伯教師の声が響く。


「合奏は簡単ではありません。しかし、それを乗り越えた時、新たな可能性が開けるはずです」


放課後の特別練習室。奏人と律は、初めての合同練習に臨んでいた。


「じゃあ、始めてみましょうか」

律がピアノの前に座る。しかし、最初の音を出した瞬間から、違和感があった。


ピアノとギター。全く異なる音色が、ちぐはぐに響き合う。


「待って、ここのリズムが…」

「あ、ごめん。僕のテンポが速すぎた」


何度やり直しても、音がかみ合わない。二人の精霊も、困惑したように見つめ合っている。


「はぁ…」

律が深いため息をつく。


「どうして?この前は、あんなに自然に…」


そう。零との対決直後、二人の演奏は不思議なほど調和していた。しかし、意識して合わせようとすると、かえってぎこちなくなる。


「もう一度、基礎から見直してみましょう」

律が楽譜を広げる。


「理論的に考えれば、きっと…」


しかし、頭で考えれば考えるほど、音楽が硬くなっていく。


「違う…こんなんじゃない」

奏人は突然立ち上がった。


「あの時の僕たちは、もっと…もっと自由だった」


彼はギターを構え直す。


「律さん、もう一度。でも今度は、楽譜は見ないで」


「え?」


「感じるままに、心の向くままに演奏してみよう」


律は少し戸惑ったが、すぐに微笑んだ。


「うん。そうね」


鍵盤に触れる律。今度は楽譜に縛られず、純粋に音を奏でる。その音に導かれるように、奏人のギターが応える。


フレイムロッカーとルナハーモニーが、まるでダンスを踊るように宙を舞う。二つの音色が、少しずつ、でも確実に溶け合っていく。


「これだ…」

奏人の目が輝く。


「これが僕たちの音楽」


練習を重ねるごとに、二人の音は深みを増していった。時には衝突し、時には迷いながらも、一歩ずつ前に進む。


そして予選一回戦。相手は3年生のペア。緊張する二人に、精霊たちが寄り添う。


「行くよ、律さん」

「ええ、私たちの音を、届けましょう」


演奏が始まる。まだ完璧とは言えない音。でも、そこには確かな心の繋がりがあった。観客の中から、小さなささやきが聞こえ始める。


「なんだろう…心地いい…」

「ピアノとギター、意外と合うんだね」


審査員たちも、興味深そうに耳を傾けている。


「やりました!」

試合後、律が飛び上がらんばかりに喜ぶ。


予想外の勝利。


「次は2回戦。もっと強い相手が待ってる」

奏人は決意を新たにする。


「でも、もう怖くない。だって…」


「私たちには、この音楽があるから」

律が言葉を継ぐ。


夕暮れの練習室に、新たな音が響き始めていた。


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