第3話「ライバル出現」
朝練習の音が響く星奏学園。奏人と律は、放課後の練習に向けて新しい曲を選んでいた。調律者としての才能が目覚めてから、一週間が経っていた。
「この曲なんてどう?」
律が一枚の楽譜を差し出す。
「クラシックの曲をアレンジして、ギターパートを加えてみたの」
奏人が興味深そうに楽譜を覗き込んだその時。
「ふん。所詮、場違いな音を無理やり押し込んでるだけか」
低く冷たい声が響く。振り向くと、一人の少年が立っていた。すらりとした長身に漆黒の制服。手には美しいバイオリンを持っている。
「氷室零」
律が緊張した面持ちで呟く。
「星奏学園最強の調律者…」
氷室零。学内でも屈指の実力を持つバイオリニストであり、調律者としても群を抜く才能の持ち主だった。
「エレキギターなど、所詮は騒音でしかない」
零の視線が奏人のギターに向けられる。
「本物の音楽が何か、教えてやろう」
零がバイオリンを構える。その瞬間、凍てつく空気が教室を満たした。バイオリンが青白い輝きを放ち、氷の結晶のような姿の精霊が現れる。
「我が名は、フロストメロディア」
凛とした声を持つ氷の精霊。その佇まいは、零の心をそのまま映し出したかのようだった。
「勝負だ」
挑戦を突きつけられ、奏人は一瞬たじろぐ。しかし、律の存在が背中を押す。
「受けて立とう」
フレイムロッカーを呼び出す奏人。炎と氷の精霊が対峙する中、零の演奏が始まった。
ヴィヴァルディの「冬」。しかし、オリジナルとは全く異なる冷たさを帯びた旋律が響き渡る。フロストメロディアの力により、教室内の温度が急激に低下していく。
「くっ…」
奏人も必死でギターを掻き鳴らす。しかし、零の圧倒的な演奏技術の前に、音が追いつかない。フレイムロッカーの炎も、次々と氷結させられていく。
「まだまだだな」
一方的な展開に、奏人は膝をつく。
「所詮、素人の戯れだ。己の分際をわきまえることだ」
零は背を向け、氷のような冷気を残して立ち去った。シーンと静まり返った教室に、重い空気が漂う。
「奏人君…」
律が心配そうに駆け寄る。
「大丈夫。これで分かったよ」
奏人はゆっくりと立ち上がる。
「僕には、まだまだ足りないものがある。でも…」
彼は父のギターを強く握り締めた。
「必ず追いついてみせる。このギターと、この音楽で」
フレイムロッカーも黙って頷く。敗北は、時として新たな力となる。奏人の目には、以前にはなかった強い決意の色が宿っていた。
「私も、協力するわ」
律の言葉に、奏人は笑顔を返した。
「ありがとう。僕たちの音楽で、必ず…」
夕暮れの教室に、新たな誓いが立てられた。真の調律者への道のり。それは、今始まったばかりだった。
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