第2話「響き合う心」



「調律者…?」


奏人は聞き慣れない言葉を繰り返した。目の前には、入学式で見かけた少女が立っている。夕暮れの光が彼女のシルエットを縁取り、まるで絵画のような光景を作り出していた。


「私は天宮律。ピアノ科の…いえ、調律者の天宮律よ」


彼女は静かに音楽室に足を踏み入れた。その手に持つ小さなグランドピアノの模型が、かすかな光を放ち続けている。


「調律者って、一体…」


「特別な才能を持つ者たち」


律の言葉に、フレイムロッカーが頷く。


「そうさ。音楽の力で精霊を呼び出せる、特別な才能の持ち主のことさ。この学園には、そういう連中が集まってるんだ」


奏人は困惑気味に父のギターを見つめる。今まで普通のエレキギターだと思っていたものが、突如として不思議な力を宿していたことに、まだ実感が持てないでいた。


「その楽器は、ソウルギアね」


律が説明を続ける。


「精霊を呼び出すことのできる特別な楽器。普通の人には、ただの楽器にしか見えないわ」


「でも、どうして僕が…」


話が途切れたその時、廊下から足音が響いてきた。


「こちらです、先生」


「ありがとう。では——」


中年の男性教師が姿を現す。温和な笑顔を浮かべながら、奏人と律を見つめた。


「やはり、新しい調律者が目覚めたようですね」


音楽理論の教師、佐伯和音。星奏学園で調律者たちを指導する立場にあった。


「篠宮君、君の中に眠っていた才能が、ついに目覚めたようだ」


教室に場所を移し、佐伯から詳しい説明を受ける。調律者たちが持つ力、ソウルギアの性質、そして精霊との関係について。話を聞くにつれ、奏人の中で現実感が徐々に増していく。


「でも先生、エレキギターで大丈夫なんですか?この学校、クラシック音楽が…」


佐伯は穏やかに笑った。


「音楽に貴賤はない。大切なのは、音色に込める想いだ」


その言葉に、奏人は少し肩の力が抜けるのを感じた。


「ねえ」


律が声をかける。


「よかったら、一緒に演奏してみない?」


音楽室に戻った二人。律はグランドピアノの前に座り、奏人は父のギター——ソウルギアを手に取る。


「即興でいい?何か、感じるままに…」


律の指が鍵盤に触れた瞬間、澄んだ音色が空間を満たす。クラシカルでありながら、どこか現代的な響き。その音に導かれるように、奏人もギターの弦を掻き鳴らす。


二つの音色が重なり合う。するとピアノとギターが呼応するように輝き始め、フレイムロッカーと共に、新たな精霊が姿を現した。


月光のように輝く姿。ルナハーモニーと名乗る律の精霊だった。


二体の精霊が宙を舞うように動き、その軌跡が光の帯となって空間を彩る。奏人と律の演奏は、まるで長年の共演者のように自然に溶け合っていく。


「これが…共鳴…」


律の目が輝きを増す。


「素敵な音…奏人君の音色、好きかも」


夕暮れの音楽室に、二人の音が響き続けた。これが、新たな物語の始まり。そして、二人の魂が響き合う瞬間だった。


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