音霊奏者―異能力×音楽の学園バトルファンタジー―

ソコニ

第1話「運命のギター」



桜吹雪が舞う春の朝。星奏学園の正門前には、真新しい制服に身を包んだ新入生たちが続々と集まっていた。校舎の窓からはバッハのG線上のアリアが流れ、厳かな空気が漂っている。


その中で、一人の少年が周囲の視線を気にしながら歩を進めていた。背中には明らかに場違いな大きなギターケース。篠宮奏人は思わずため息をつく。


「やっぱり、来るんじゃなかったかな…」


星奏学園——日本屈指の音楽名門校。創立以来100年以上の歴史を持ち、数々の著名な音楽家を輩出してきた伝統校だ。その校門をくぐるのは、エレキギターを持った少年にとって、想像以上の重圧だった。


入学式は講堂で行われた。理事長の式辞が響く。


「本校は、クラシック音楽の伝統と誇りを受け継ぐ殿堂です。諸君らには、その精神を理解し——」


奏人は膝の上に置いたギターケースに、そっと手を触れた。ケースの中には、父の形見である赤いエレキギターが眠っている。


「父さん…ここで合ってるのかな」


ふと横を見ると、一人の少女が真剣な面持ちで式辞に聞き入っていた。ピアノ科の制服。整った横顔に、凛とした空気が漂う。後にこの少女が、奏人の運命を大きく変えることになるとは、この時は知る由もなかった。


教室での自己紹介。奏人の番が回ってきた。


「篠宮奏人です。えっと…ギター科です」


教室がざわつく。「ギター?」「クラシックギター?」「いや、エレキだって」。クラスメイトたちの間で囁きが広がる。その視線の重さに、奏人は居心地の悪さを感じていた。


放課後、人気のない音楽室。夕陽が窓から差し込み、埃っぽい光の帯が空間を横切る。奏人は誰もいないことを確認して、おもむろにギターケースを開けた。


深紅に輝くボディ。「To my son - Follow your heart」という言葉が、ボディに刻まれている。父が残した最後のメッセージ。


「約束通り、ここまで来たよ…」


指が弦に触れた瞬間だった。予期せぬ共鳴が、突如として始まった。ギターが赤く輝き始める。その光は次第に強さを増し、渦を巻くように部屋中に広がっていく。


「な…何だこれ!?」


驚いて立ち上がる奏人。光の渦は徐々に形を成し始め、炎のような姿の存在が浮かび上がった。


「よう、パートナー。オレはフレイムロッカー。お前の魂の音色に惹かれて来たぜ」


低く、どこか懐かしさを感じさせる声。奏人が言葉を失う中、音楽室のドアが開く音が響いた。


そこには、入学式で見かけた少女が立っていた。彼女の手には、小さなグランドピアノの模型のような装飾品。それが、奏人のギターに呼応するように、かすかに光を放っている。


「あなたも…調律者?」


静かな声が、夕暮れの音楽室に響いた。


これが、全ての始まりだった——。


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