第5話 勇者カオリ②

「喰らえ! 緑甲羅!」

「だったらバナナでガード!」

「アイテムボックスゲットーーアウチッ!」

「バカめ! それは偽物だ!」

「イッツミー! マァーリゥオー!」


 王道的勇者のピンチ状況をぶち壊すかの如く、カーレースしながら珍乱入して来たゴウ達。

 見覚えある甲羅が飛び交い魔物が轢き飛ばされるなど、混沌とした場違いなこの現状。

 カオリもジャガーもあんぐりと、顎を外すほどまでに口を開く茫然状態。

 剣と魔法の王道ファンタジーワールドが、任天堂レースゲームへとテラ・フォーミングされたと言ってもいい状態だ。無理もない。

 マジで何しにきたんだよコイツら。


「ところでこれ、ゴールはどこにあるんだ?」

「ゴールはもう見えてんだろ。ほら、あそこ」


 先頭を走るゴウが指差したのは……


にゃっ、にゃうんえっ、俺っ!?」


 カオリのそばにいるコロッスジャガーだった。


「アイツを弾き飛ばした奴がこのレースの一着だ」

にゃうぃいっなにぃいっ!!?」

「って事でラストスパート行くぞオラァ! 一位はこの俺だイヤッフー!」

「いや、この俺『クマリオ』だぁ!」

「我輩『クマッパ』じゃぁ!」

「『クーチ姫』よ!」

「クイージだ!」

「クマキーコングだ!」

「クワリオじゃ!」


 獣の……否、魔物の感により、このままだと轢き殺されると自覚したのだろうか。

 後一歩で仕留められる獲物カオリを無視し、真っ青になってすぐさま逃げ出し始めるコロッスジャガー。


「あっ! ゴールが逃げた!」

「テメ、ザッケンナッ! ゴールが逃げるだなんて反則だろっ!!」

「追うぞ! なんとしてでもゴールしてやる!轢き殺してやる!!


 呆然と固まってるカオリを通り過ぎ、逃げるコロッスジャガーを追いかけるゴウ達。


 全力疾走で逃げるジャガーだったが、やはり魔物とはいえ所詮は生き物。

 息切れし始め速度が遅くなっていき、徐々にゴウ達との距離が縮まり追いつかれていく。


「おっしゃぁ! 畳み掛けてやる! キノコでGo!」


 ゴウは手に持っている見覚えのあるキノコお馴染みの加速アイテムを食べた。

 するとまぁ不思議。

 カートのマフラーからブーストの様な火が放出され、一気に加速したではありませんか。


 そしてゴウはそのまま、コロッスジャガーを通り抜き、


「……にゃえっ?」


 コロッスジャガーが「アレ?」っと言ったような表情を浮かべた直後、


「後輪アタック!」ドゴン!

「ぶにゃっ!!?」


 前論だけで三百六十度回転し、後輪右タイヤでジャガーにダイレクトアタック。顔面でモロに受けたジャガーは吹っ飛び倒れた。

 それを目撃したマリオキャラのコスプレしてるクマ吉達は、一斉に攻めかかるが、


「おっしゃ! これで俺がーー」ガゴンッ!

「ゔぁ!?」ゴンッ!

「ぎゃっ!?」ズンッ!

「ゔぉ!?」

「なんで!?」


 車間距離が短すぎる上に、ジャガーを弾き飛ばす事が一位になる。それが絶対条件だったからであろう。

 我先にとジャガーに突進しようとしたカート同士がぶつかり合い、そのまま転倒したり吹っ飛んだり、挙句の果てには上から降って来たカートの下敷きになったりともう滅茶苦茶だ。

 タイヤが絡まったり、部品同士が引っかかり合ったり、気づけばみんなくっついて塊魂の様な球体となりゴロゴロ転がっている。


にゃ、にゃにゃにゃうにゃいや、いくらなんでもおかしいだろッ!? にゃゔぇがうぇッ!!」


 コロッスジャガーもクマ吉達だった物に押しつぶされ、塊魂の一部となってしまった。


 その後塊魂は、草原の草々、森の木々、街々の建物など取り込んでいき大きくなる。

 やがては山、海、雲も取り込み、遠い未来には星や銀河も取り込むであろう。


 これは、たった一つの小さな玉が主役の冒険譚。

 様々な存在を取り込み、やがては新たなビッグバンを引き起こし、新宇宙が生まれんとする物語である。



『任天堂ゲームソフト 『塊魂 ディメンション・ワールド』


 三千三百二十一年発売予定    』


 ーーっと、なる前に、


「んなもん売れるかァァァァァァァァッ!」


 DOGAAAAAAN!


「「「マンマミーアァァァァァァ!!」」」

「ぶにゃぁぁぁぁぁっ!!!」


 ゴウが何処からか取り出したバズーカによって、転がる塊は爆散したのでありました。


「ゲームは一日一時間だ」


 そう呟いき締めた時、ゴウはここまで走って追いかけて来たカオリに気づく。

 目の前の光景に対して、カオリは未だに我が目を疑ってる様な顔を浮かべ眺めていた。


「おぉ、お前、怪我はなかったか?」

「えっ、えぇ……。異常すぎる点が沢山あったけど、まさかコロッスジャガーをこんな簡単に倒しただなんて……」

「勝てたのは俺だけの力ではない。勝利という名の可能性を信じ、俺とクマ吉との友情がお前を救ったんだ」

「く、クマ吉? そ、それって……こんがり姿のコロッスジャガーの隣にいる、あの丸焦げの?」


 カオリが指差した方角には、バズーカの爆炎により真っ黒に焦げたコロッスジャガーとクマ吉の姿が。

 二匹の体から食欲を沸き立たせる様な香ばしい匂いが立ち上っている。

 その匂いに釣られ、近くにいる下級モンスター達に群がれ食われていた。


「おのれ堕天使に従いし勇者共ッ! よくもクマ吉を……! 絶対に許さん!!」

「いや、途中から見てたけどトドメ刺したのアンタだからっ! って、今勇者って……」


 『勇者』と言う一言を耳にした途端、カオリは城で出来事を思い返してしまった。


 今のゴウの姿は、日本ではメジャーな格好であるジャージ姿。

 ここ中世ヨーロッパ異世界では余り見られない服装である。


 まさかこの人も召喚された人なのか? 

 また無実の罪を被せた奴ら同様、自分に何かしてくるんじゃないのか?


 彼女はあれ以来、誰も信用できなくなっていた。

 特に王族や貴族、そしてゴウの様な姿のした人物には尚更だ。


「……助けてくれた事は感謝してる。だからギルドの受付前の食事テーブルにお礼置くから受け取ってね」


 無愛想っぽくそう言うカオリはフラつく体を引きずり、街へと戻って行く。


「妙に元気なさそうな奴だが……それよりもここには勇者いなさそうだし、ひとまず戻るか」


 そしてゴウも、ハイエナの餌になってる様な状態のクマ吉を置いて、エクストに戻って行くのだった。

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