第6話 冒険者なってもハジケリストはハジケリスト①
ギルドに戻ったカオリは報酬を受け取った。
大半を別の袋に入れ、受付前の机に置いてギルドから出た。
その後、近場の店で安い衣服を購入し、再びギルドに戻り食事をとる。
ギルドの料理人がワザとそうしたのかと思うほど、口に入れた料理から味を感じない。
それ程までに彼女の精神が弱っていると言ってもいいだろう。
それもその筈。周りから向けられる彼女に対する蔑む様な視線。
誰一人も彼女に声かけようとせず、完全たる孤立無縁と言わんばかりの状態だ。
そればかりか、稀に突如現れた冒険者達に、皿をひっくり返されるなどの嫌がらせを受ける時も。
この様な毎日を送っていれば、いつ気がおかしくなっても不思議ではない。
今の彼女は心の余裕がなく、現在の心境を保つだけで精一杯なのだ。
早く食事を終わらせ、ギルドから立ち去ろうと思いながら食べていたその時、
「「何ぃぃぃぃ!! 俺達には報酬がないぃぃぃ!!?」」
聞き覚えのある……否、忘れたくても忘れられない様な大声が、受付の方から聞こえて来た。
「も、申し訳ございません……。貴方様方は冒険者ではありませんので、モンスターを討伐したと申し上げられても報酬は……」
「ザッケンナ! デカ猫丸焦げにしたのは俺のおかげだろォォォが! 全部俺に寄越しやがれェ!」
「ぐ、偶然見かけた方々の証言によりますと、貴方は黒焦げ状態のコロッスジャガーと一緒にモンスターに食べられてたとか……って、なんで生きてるんですか?」
受付の前で叫ぶ、レースしながら珍乱入して来たゴウとクマ吉。
二人を見た途端、苦手な人と鉢合わせした様な苦い顔を浮かべるカオリだった。
「分かったわ! 私達を騙してお金をすべて横取りにする気なのね!!?」
「ええ!? ち、違います、そ、そんなことーー」
「この泥棒猫! 泥棒猫!! 泥棒猫!!! 泥棒猫!!!!」
「だ、誰か! 誰かぁ〜!」
受付のお姉さんを掴みかかってグラグラ揺らすヒロインモードのクマ吉でした。
止まらないヒステリックなぬいぐるみ生物の暴挙。
手のつけようのない馬鹿にお姉さんはいよいよ周りに助けを求め出し、
「やめなさいっ!」
BAGON!
「ゴォっ!!?」
そんなクマ吉にゴウは拳骨をかました。
頭上にタンコブが出来上がって気絶するぬいぐるみ擬きを後ろへポイッと投げ捨て、ゴウがクマ吉がいた場所へと移動する。
「俺の仲間が迷惑かけた。お詫びと言ってはあれだがこれを受け取ってくれ」
そう言ってゴウが受付カウンターの前に置いた物は……、
「あの……これは一体なんですか?」
「プレステソフト『ドラゴンボール○カカロット』だ。本機にダウンロード版をインストールしてあるから、ディスクの方を渡しても問題ない」
「いや、こんなの渡されても困るのですけど!?」
「待つんだゴウッ!」
お姉さんがツッコミ声を上げた途端、頭にコブ浮かべてるクマ吉が静止の声をかける。
「それは同級生の『たけし君』に借りた代物だ! それを菓子割り代わりにするだなんてよくねえだろ!」
「俺だってこんな事したくねえんだよッ! だけど……日本円が通用しない世界じゃ、菓子割りの菓子すらも買えやしねえんだよ……だったらもう……これしか……」
「このギルドで使える食券数枚お渡ししますので帰ってください!」
ガチ泣きしながら熱く語り合う二人に困り果てる、受付のお姉さんでした。
なにやってんだコイツら? ってかお礼のお金ちゃんと持ってったのか?
ため息を吐きそうな表情浮かべながら、ゴウ達を見ていたカオリ。
ひとまず言った場所に置いといた袋をちゃんと取ったのか、確認しようとした時、
誰かが今も食しているご飯もろとも、テーブルを蹴り倒してきたのだった。
「これはこれはぁ、コロッスジャガー如きにボロボロにされて帰ってきた勇者様じゃぁないですかぁ〜〜」
殺気を込めた目で、足が出た方に顔を向けて睨みつけるカオリ。
視線の先には、いつも彼女に対して姑息な嫌がらせをしてくる、例の冒険者の一人がそこにいた。
「全くよぉ〜、勇者様って伝承じゃ、世界を救う力を持ってるんじゃなかったっけぇ? それなのにコロッスジャガー程度のモンスター如きに傷だらけにされてさぁ」
いやらしく、蔑む様な上から目線で偉そうに言葉を紡ぎ続ける冒険者。
「にしてもクエストから戻ってきて金入ったってのにそんな装備かよ。これなら最初の頃のボロっちいインナー姿の方がまだエロっぽくて良かったのになwww」
カオリは一瞬理性が吹き飛びそうになったがなんとか堪える。
そのまま立ち上がり、彼を無視してギルドから出ようとした時、
「あ、そっかぁ! そんなショボい装備しか買えなかった理由ってこの袋を忘れたからかぁ」
冒険者はワザとらしくそう言いながら、手に持ってる袋を見せつけるように上げた。
冒険者が持っていた袋は、ゴウ達に渡そうと思っていたお礼の袋だった。
「っ!?」
カオリはゴウ達に受け取って貰う為に置いた、お礼袋を持っているクズ冒険者ーー
キュルキュルキュルキュルキュル……
ーーの背後にいる、戦車姿のクマ吉と、それに乗ってる軍服姿のゴウを見て無言のまま愕然とした。
キャタピラと砲身の中間部位の中央から、亀の様に顔を出してるクマ吉戦車。
目標を指差すゴウの指示に従うかのように、クズ冒険者に主砲を向ける。
まるでいつでも攻撃出来ますよと脅さんかの様に。
この現状に対し、どゆこと? と言わんばかりな顔になってしまってるカオリさん。何を言えば良いかわからなそうだ。
そんな複雑そうな彼女を見たクズ冒険者は、「やはりこの袋はアイツのだったか」と勝手に思い込み、薄ら笑みを浮かべる。
なので周りが仰天的瞳で見つめてる中、彼だけは未だに背後の
「なんで金詰めてあそこの机の上に置いたか知らねえけど、返して欲しいだろ? だったら素直に白状したらどうなんだ? 仲間に他の勇者様のパーティーメンバーをーー」
「「攻撃開始!」」
BOOON!
「ギャァああああああああああああ!!」
カオリに強制的に自白させようと汚い手段を行った冒険者は、クマ吉が放った弾頭をモロに受けて爆散。
煙が消えると冒険者は黒焦げとなっており、そのまま床にぶっ倒れた。一応生きてはいるみたいだが。
壮大な爆音で我に返ったカオリは、真っ黒姿のクズ冒険者が視界に入る。
彼を見た途端、カオリは不思議と爽やかな気分になった。
心の中で詰まっている黒いものがちょっと抜け、少しばかりかスッキリしたようだ。
黒焦げ冒険者を見ながら軽く笑っている。
直後にふと、カオリは思った。
ひょっとして、目の前にいるゴウって人は、本当にただ自分を助けようとしただけではないのかと。
カオリは顔を上げ、再びゴウの方へと目線を向けると、
「ちょっ!? アンタ! 何があったか知らねえけどやり過ぎだろーが!」
ゴウは現在、野次馬として見ていた冒険者達の一人から怒声を受けていた最中だった。
「いや、ちゃうんっすよ! これにはちゃんと理由があるんっすよぉ〜〜」
「り、理由って……確かにコイツは巷で問題になってて誰も関わりたくない奴だが、アンタもコイツに何かされたのか?」
「実は……実は……」
子犬の様にプルプル震え、泣くのを堪える表情を浮かべてたゴウは……、
「あそこにいるリーゼント冒険者にやれって命じられて……」
少し前にバックドロップ炸裂した、あのリーゼント冒険者に指差しそう言った。
「……えっ!!?」
完全なる冤罪の擦りつけである。
当然全く無関係なリーゼント冒険者本人は、奇声を出すほど超びっくり。
「ち、違う! 俺は何もーー」
濡れ衣着せられ驚愕するリーゼント冒険者は、困惑しながらも誤解だと言う最中、
ポキ、ポキ……
「若造やぁ〜、お前さんよぉ〜くもワシの大事な部屋住みをこぉんな真っ黒焦げにしちょうてくれたのぉ〜」
額に『目指せ書籍化!』と書かれた鉢巻を巻いた、黒和服姿のダンディなクマ吉。
指を鳴らし、極道親分雰囲気を醸し出しながらリーゼント冒険者に迫ってました。
「まっ、待ってくれって! 俺は別に何も命じちゃ……」
「しらばっくれんなやぁ。お前さんの背にちゅぁ〜んと証拠ぐぁあ〜るやないかさかぁい」
「はぁ!? せ、背中にって……んなもんあるわけーー」
動揺状態のリーゼント冒険者がバッと背後を振り返ると、
『私が命じました(by リーゼント冒険者)』
妙なプラカードを掲げてるゴウがいた。
「……」
「……」
「……」
「「「……」」」
ガチャリ
「自首します」
「それで良い」
クマ吉(警官姿二体)に手錠かけられたリーゼント冒険者は、ギルドの外で待機してるパトカーに乗った。
そして更生のため、被害者の家族達に詫びる為、彼は警察署へと向かうのだったーー
「公開処刑開始!!」
ロケラン発射してDOOOON!!
「「ゴゥァアアアアアアアアアア!!」」
ーーところを、ゴウの奇襲によってパトカーごと爆散されたのでありました。
これで黒焦げ冒険者も報われる事であろう。
……いや、ナニコレ??
「…………」
絶対違うなと思ったカオリさん。
彼女はこの場の人達がゴウ達に気を取られてるうちに、ギルドから出ていきました。
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