第3話 バトルの準備
朝の登校時間、学園への道を俺とエリナは歩いていた。
エリナが何かずっとモジモジしてるので、あまり会話は弾んでいない、むしろちょっと気まづい。
「……あんた、本当に変わってるわね」
突然、エリナが口を開いた。
「急だな、俺が変わってるのはともかく、エリナはどうなんだ? お前も結構普通じゃないだろ」
エリナは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに視線を前に戻した。
「……私は普通よ、むしろ“普通以下”かもしれないわ」
「どういう意味だ?」
彼女が答えるまで少し間が空いた。やがて、どこか虚ろな笑みを浮かべなが
ら口を開いた。
「私には姉がいるの、アイリス・フロスト、生徒会長よ、この学園では“完璧”って言われてる人」
「それを知った時はびっくりしたぞ、でも確かに言われてみればかなり似ているな」
エリナはその言葉に微かに反応したが、すぐに首を振った。
「似てるなんてとんでもない、姉はいつだって完璧で、何でもできる、私はその影に隠れているだけの存在よ」
「影?」
「そうよ……周りから見れば私は“アイリスの妹”でしかないし、それ以上にはなれないの」
声には淡々とした響きがあったが、その裏にある悔しさが滲み出ていた。
それを聞き、少し考えた後、俺は何気なく言った。
「いや、お前はお前で可愛いところあるけどな」
「はぁっ! え、はぁ!?」
エリナは急に足を止め、俺の方を見た。驚きと戸惑いが入り混じった顔をしている。
可愛いって……そんなの、全然関係ないでしょう!」
「そうか? でも、お前が姉と違うところがあるなら、それはちゃんとお前のいいところなんじゃないのか?」
エリナは一瞬言葉を失ったようだった。やがて、顔を赤くしながら小声で呟いた。
「……なんなのよ、本当に変な人ね……」
その後は特に会話が弾むこともなく、学園に到着した。だが、エリナが時折プリプリしながらこちらをちらりと見てくるのが気になった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ようやく今日の授業が終わった。
流石、最高峰といった所だ、授業のレベルがとても高い。
そして、Fクラスだが、正直楽しい。
全員明るく、俺を差別することもない。
俺が寮に向かおうとした時、偶然エリナと出くわした。
「奇遇だな、一緒に寮まで行くか?」
「別にいいけど、私のペースに合わせてよね」
そうして歩き始めた数分後、空気が妙に重たくなった。前方に、見知らぬ男三人組が立ちはだかっている。
真ん中にいる黒髪の男が、こちらを見て不敵な笑みを浮かべていた。
「おやおや、これは珍しい光景だな!あの会長の妹が、無能力者なんかと一緒に歩いてるとは!」
「リオ・バルケス……」
エリナが男の名前を呟く。どうやら知り合いらしい。
「あのアイリス会長の妹とはいえ、少しばかり警戒心が薄いんじゃないか?」
リオの背中から黒い触手が現れ、それが生き物のようにうごめき始めた。
「何の用……」
エリナが冷たい声で返すが、リオは余裕のある笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
「今日こそ、俺と遊んでもらおうと思っただけさ! 別にいいだろ?」
触手がエリナに向かって軽く揺れたその瞬間、周囲の空気が一気に冷え込んだ。エリナが静かに異能を発動したのだ。
「その触手……凍らせて砕いてほしいの?」
鋭い氷の刃が空中に現れ、リオの触手に向けられる。
「これで終わりよ」
氷刃が放たれようとした瞬間、俺は慌ててエリナの腕を掴んだ。
「ちょっと待て」
「何で止めるの?……」
エリナは俺を睨みつける。だが、その視線には怒りというより戸惑いがあった。
「いや、分かってる、お前がここでそいつをやっつけられるのは分かるよ」
「なら、何が問題なの?」
俺は少し言葉を詰まらせたが、続けた。
「お前がやったら、そいつはただの氷漬けで終わりだ、でも、俺にやらせてくれ、こういう奴相手に勝つのが、俺のやりたいことだからな」
エリナは一瞬だけ驚いたような顔をしたが、やがて短くため息を吐いた。
「勝手にしなさい……だけど、無様なところは見せないでよね」
彼女が氷刃を引いたのを確認して、俺はリオに向き直る。
「さあ、Bクラスのリオとか言ったな、お前、異能がなくても強いやつを見たことあるか?」
「はぁ? 何だと?」
「まあ、見たことないだろうな、だったら、今見せてやるよ」
「ちっ……そんな軽口が叩けるのも今のうちだ」
リオが触手を引き戻しながら、不敵に笑う。
「異能バトル制度のことは知ってるよな? ここでは実力で全てが決まる、もしお前が負けたら……お前の立場、さらに地に落ちるぞ?」
リオは手首のスマホ型学生証を操作し、異能バトルを申請する。俺のスマホにも通知が届き、バトル申請を受ける画面が表示された。
「どうする? 怖気づくなら、今のうちに逃げ出せよ」
「いいや、受けて立つさ」
俺は迷わず画面をタップし、承認した。
周囲がぼやけたかと思うと、あたり一面が一瞬にして荒野のような仮想空間に変わった。
砂塵が舞う無機質な戦場に、俺とリオだけが向かい合って立つ。エリナや周囲の観客たちは仮想空間の外から見守る形だ。
「これが異能バトル制度……面白い仕組みだな」
「面白いのはこれからだ、無能力者のお前が地に伏す瞬間を見てやるよ」
「やってみろよ
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『無能は異能』 〜異能学園で無能力者がトップを目指します〜 傘ヲ @kasaocom194
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