ミザルー

カフェオレ

ミザルー

「どけっ!」

 青春最後の大会。俺は接近してきた邪魔くさいバイクに一喝すると、蹴りを入れ走り出す。

 バイクは横転。バタン、ズザザーと聴こえたかと思うと、ドカーンと爆発炎上! どうした? 後続のバイクか車にぶつかったか? 無事だろうな?

 俺は一瞬、バイクと後続車が事故に合っていないか、自分や仲間達がこれで批判されまくるのではないかとか心配するがそんな思考は拭い去る。走ることに集中。つま先にグッと力を込める。

 ランナーズハイに突入。ぜえぜえと息が上がるし、力を込めたつま先がなんだかあり得ないくらい痛いが無視だ。無視無視。厳しい上り坂も下り坂も難なく走り切り、ライバル達を追い抜きまくって必ずやタスキを繋いでみせる! 俺は爽やかな一陣の風だ。いや、違う! 俺は竜巻だ‼︎ ライバル達をなぎ倒し、沿道からの悲鳴をかわしバイクも寄せ付けない。無双の走り。生命の神秘。グルングルンと視界が回る。竜巻になったからだ。

 そしたら、背後からエンジン音。監督車だ。

「おい!」

「はい!」

「馬鹿だろ!」

「馬鹿です! バイクは無事ですか?」

「無事だ。走りに集中しろ!」

「はい!」

 俺の返事は聴こえてなんかいないはずだが監督とはなんとなく会話が成立している気がするし、見えないけど監督の満足げな笑顔が見える気がする。

 その時だった。またもつま先に激痛。これはちょっと我慢できない。くそ、こんなところで……。

「おい、坊主!」

 !

 声の聴こえた方を見るとボロボロのバイク。俺が蹴りを入れたあのバイクか、良かった生きていた。後で聞いた話だがこのバイク野郎はあの炎上の中から救い出された後、奇跡的に蘇生。執念でバイクを走らせてここまで来たらしい。スゲーな。

「やってくれたな。お前にはたっぷりお返しをしてやるよ。だが敗者にそんなことしてもつまんねー。だからよお」

 バイク野郎は大きく息を吸い込む。

「勝て‼︎」

「はい‼︎」

 バイク野郎と水で乾杯。つま先に無理矢理力を込めて、再び俺は渦を巻く。

 前方に見えてきた次のランナー、ケン。俺は回転しているからタスキが上手く繋がるかは五分五分だ。だがやるしかない。

 俺の右回転に合わせケンもやや左回転の姿勢。行け! 繋がれ‼︎

 パシッ!

 ケンは走り出す。

 タスキは繋がった。俺はタオルに倒れ込む。

 やりきった。悔いはない。

 すると忘れていたつま先の痛みに気付き慌ててシューズを脱ぎ、靴下も脱ぐ。ポロッと何かが落ちる。

 ありゃりゃ、つま先取れてやがる。

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ミザルー カフェオレ @cafe443

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