第29話 奇策
三、二、一のカウントが始まって、ついにリーダーが走り出した。
姫サークルへ一直線で、お互いに最短時間でぶつかった。
「よっしゃみんな行くぞー! 打倒、ピエナ姫だ!」
私たちもみんなバトルフィールドに入った。
すぐに体制整えてマップ確認したし、私も早速毒散布入れて時間数えてるけど、……相手がぶつかるどころか散り散りになっていくのが表示されてる。
「……え?」
『素直にぶつかるわけないじゃないですか。目的は時間稼ぎですよ、時間稼ぎ』
相手陣営のリーダーから音声が飛んできた。
『別に私たちは勝利ポイントなんて目指してません。前回勝ちましたから。
あとは十分、まるっと逃げ切れば良いんです』
勝敗がついたら申し込めない時間があるけど、完全にドローの場合はすぐさま再試合が可能だ。
『たくさん練習して頑張ってきた、そんな皆さんの楽しい遊びを潰すことこそが、私の目的です』
ピエナちゃんえげつないって。
この状況を最初から狙ってたんだって、今日のために機動力高い職業に転職したのが見るだけで分かる移動速度に息を呑んだ。
多分全員、ドラゴンライダーだ。騎乗スキルで攻撃させないように空飛んで逃げてる。
「ミツハはそのまま毒入れ続けて。ビートの成果期待してる」
慌てて再散布入れたけど、タツキが短気なドラゴンライダーさんに掴まってそのまま飛んでいった。
もしかして、追いかけるのかな。
リーダーもマップ見てたけど、兜の中から響いた声はいつもらしく明るかった。
「よし、ウエイは雷魔法準備、マゼンタも弓装備してワイドショット待機な」
「え。でもリーダー、このままじゃピエナちゃんたち、うちの陣地になんて来ないですよね!?」
「大丈夫、大丈夫。お、ミツハそろそろ十五秒だぞ。出来ることに集中、集中」
たくさん練習したビート刻んでるけど、相手のHPバー見えなくても多分これくらい、で毒散布入れ直した。
でもこのままだと、全体回復入れられたら毒ダメージの効果が出てこない。
時間いっぱいまでタツキとドラゴンライダーさんが追いかけても、ドラゴン同士の速度はそうそう変わらないから一人もダウン取れないままだ。
背中に他キャラ乗せて移動してる最中はドラゴン攻撃出来ないし、タツキの攻撃範囲に入らない限りダメージも入らない……って焦ってるのに、リーダーは余裕のピースサインだった。
「安心して待ってようぜ、姫さまは優雅に遊覧飛行なんて出来ないから」
今度はサムズアップしてるリーダーが、多分兜の中で笑ってる。
「リスクヘッジしてこの作戦も読んであった。
多分姫はポイントが連携して移動する中にいる。
今タツキたちが追ってるのは、この二頭な」
マップ見ると、確かにバラバラに見えても二つだけマーカーが近い気がする。
「作戦上、どうあってもあの二人は騎士と魔法使いとして、近くにいる必要がある。
マップ上は点が五つだから、ミラとピエナがドラゴンで移動してるのは確実だし、ドラゴンは飛び道具に弱いから特攻持ってる銃火器職のタツキで撃ち落としてもらう話もしてあった」
毒散布。
時間数えながら聞いてたら、リーダーがグッジョブエモート出してきた。
「で、問題はあいつらがドラゴンいるなら転職すれば良い、乗れば早いって単純に思ってること。
転職したてのドラゴンライダーが、ずっとドラゴンライダーやってるやつに操縦敵うと思う?」
フルダイブ型のゲーム内で、ドラゴンをオート操作にしてるならまだしも、体によるコミュニケーションで動かすマニュアル操作はかなり難しいらしい。
「上昇でスキル使って、下降で速度上げて、気流読んで最短距離で飛ばす。短気なドラゴンライダーはせっかちだからマニュアル操作で、飛ぶのも早い。
さらに、背中に乗せてるのは」
マップの点が確かに近づいていく。
また毒散布入れてたら少しずつ点が乱れた動きになってきて、こっちに向かってくる。
「前回大会のランカー様が特攻持ちながら初心者撃ってくるのに、まともに戦えやしないって」
今はあの二人が狩人なんだって、ついに大斧を構えたヒーラーちゃんを見て思った。
「ウエイ、そろそろくるから撃ち落とし頼むな。
出来れば直撃で麻痺入れて。マゼンタも飛んでるうちに撃っておいて」
「承知のすけ」
「雷魔法の範囲は広いので。麻痺も出来る限り頑張ります」
とはいえかなりの速度で飛んでくるドラゴンだ。
また毒散布入れながら待ってたけど、マップの点がぐんぐん近づいてくる。
ウエイさんが溜めてた魔法を一気に放つと、エイムバッチリでドラゴンたちに雷雨が降り注いだ。
「きゃぁあっ」
特攻判定の攻撃が降り注ぎまくるから、ドラゴンが落ちてくる。
背中に乗ってた騎士のミラが姫装備のピエナちゃんを抱えたけど、待ってるのは大斧を引き切って構えてるヒーラーちゃんだ。
「『戦斧一閃』!」
「『全員集合』!」
ミラは呼び寄せた味方を盾に斬らせた。ダウン二人しか取れなかった。
でもタツキも後ろから飛び降りてるのが、銃構えてるのが見える。
無言のままマシンガンで弾丸の雨降らせて、短気なドラゴンライダーさんのドラゴンが炎を思いっきり吹きかけながら降下してくる。
ついでにタツキが手榴弾のピン噛んで引っこ抜いて、投げ落としてきた。炎に触れたら誘爆判定が起きる。
「ピエナ、エレメンタルグレイス!」
「あ、う……」
毒散布のドットダメージでダウン取れたんだけど、ってログが私に入ったので見えた。
でもミラがアイテム使うのよりも、すでに剣振りかぶってるうちのリーダーと、突然集合されて統率取れてないドラゴン狩りに行ってるヒーラーちゃんたちが早い。
手榴弾と炎が炸裂して、目の前が光エフェクトで真っ赤に染まる。
タイミングだから毒散布もう一回入れようとしたら、アイテム使えなくなってて……全員ダウンしたんだって、勝利画面で気付いた。
「よしポイントゲット。次は近くに『火曜日は狼』がいるから吹っかけに行ってくるな」
「ちょっと待ちなさいよっ」
戦闘終了してダウン回復したピエナちゃんが叫んだけど、リーダーはもう手を振って走り出してる。
「五分後にまた会おう。
そうだピエナ、ちゃんと職業戻させた方が良いぞ。俺ら今回ほぼノーダメ。
前の方がまだ強かったから『初心者狩り』とか言われないように頼むなーじゃなー」
リーダー、煽っていった。やっぱ勇者かな。
「えーん待ってよリーダー、装備脱げたまま試合開始とかやだー!
火曜日は狼とか、絶対にヒーラー必須なサークルだよー!」
とにかく急いで職業とスキル取り直してるヒーラーちゃんと一緒に、私も毒瓶と店売りアイテム補充とか必死でやった。
アイテム個数書き出してあったからまだマシだけど、持ち込める数が決まってるからバトルごとにポーションの個数管理が忙しい。
リーダーは狙い通り『火曜日は狼』のリーダーを見つけて、バトルスタートさせてくる。
私たちも間に合って自分の役割全うしたけど、相手は中堅サークルでも、練習重ねてきたから危なげなく勝利してポイント奪取出来た。
また索敵フィールドでリーダーがピエナちゃんに向かって走っていくから、職業再変更のヒーラーちゃんと一緒に私も毒瓶補給して、今度こそゾンビ戦法のピエナちゃんたちと再戦になった。
『絶対に許さないっ、許さない、許さないぃい!』
「いい感じに頭に血が昇ってるな。
……さあここからが本番だ。前回の借り、返してやろうぜ!」
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